- 存在 -

第17話

朝日が昇り、いつもの日常が今日も始まる。

穏やかな風が緑を揺らしている上り坂。それを間に挟んだ閑静な住宅街。

頂上に佇むのは、その中でも群を抜いて大きな邸宅。


手入れのされた美しい庭には、咲き誇る色とりどりの植物。3階建てで、高級車が並ぶ駐車スペースを構えたそれは、見る者達を羨望の眼差しに変える。



「おねーちゃーん!おねーちゃん!!」



しかし、そんな羨望の眼差しは、見事に裏切られる程の騒がしい声が、朝から家中だけでなく外までも響き渡った。


愛犬に引かれながら家の前の道を歩く近所の老人は、いつもの賑やかな声にまた今日も一日が始まったと、柔らかく目を細める。



「おねーちゃーんってばー!!」


「はいはーい。今、行くから。」



再び聞こえるその声に急かされるように、セミロングの黒髪をブラシで梳かす。素直に流れる艶やかな髪は枝毛ひとつなく割りと自慢だ。


芦田(あしだ)ミオ。

中学3年生。最近の楽しみは妹のヘアアレンジ。憂鬱なのは幼い頃から苦手な梅雨が始まった事。

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