第2話 螺旋

唯彩を持つ者にしか見えるとか見えないという螺旋が、巨大図書館には存在する。


一般の利用者の噂じゃ、この図書館には、本来と別の用途が存在するとかもいう。


閉館後に図書館内をうろつく不審者がいるだとか、国のお偉方がここで夜な夜な集まりをしているとか。


――――――――


スーツからラフなワンピースに着替え、寿々は螺旋を歩いていた。


足下を覆い隠すほど長いワンピースは螺旋を上がっていく寿々すずの後ろを擦って着いていくように見えた。


閉館、清掃、消灯、全てが済んだ大図書館には灯りはほぼない。

唯一、螺旋を囲うように手すりに灯りが連なる。


図書館司書の夜勤とは即ち、閉館後の何も無い空間にて存在する仕事なのだ。



“知恵の伽藍”と称される、「シーンツァ」の巨大図書館。


地上八階を従える巨大図書館では、無論働く司書の数も段違いだ。

一日かけても館中全てを練り歩くことは出来ないし、本の配置を把握することは至難の業。

知恵の伽藍で働く司書は、国のエリート職の一つと言われていた。


中央の吹き抜け部分に浮く時計台の示す時刻は深夜二時。



寿々は口に咥えるキセルを手にとり煙を吹き出す。

もう片方の手には淡い炎が浮いている。


が、すぐにキセルを咥え直すと、その手で浮いた炎に水を落とした。


耐熱性の低い寿々の薄い肌は長時間の炎に向いていない。


「やけどした・・・」


水を被った手を払いながらも、足は進める。


これで夜勤の仕事内容が、図書館で秘密裏に飼われている魔生物の飼育なんかなら面白かったものが、夜勤の仕事は本当にただ図書館を歩くだけだ。





女性はその場に静止した。

しておくべきな気がした。

しておかないと身の危険があるような気もするし、別にそれほどでもないような気もする。


停滞していると、そこに灰の香りが残留し始める。


“それ”は図書館という場で嗅ぎ慣れないであろう香りに鼻をぴくりと動かした。


「私は何故か子供との縁があるらしい」


女性はキセルを口に咥えて手を離すと、“それ”の目の前で服装を正し始めた。

決して恐怖心を煽らぬように隠すべき所を隠すと、羽織っていたローブを“それ”の肩に掛けると女性は、出来る最大限の自信を纏った笑顔で微笑みかけた。


「ところで少年、君は透明人間か何かかな?」

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