第22話

静まり返る店内。


要さんが口に咥えた煙草の煙が、

ただ静かにユラユラと昇っていく。















「ぶはははっーーー!」





突然、コウさんの笑い声が響いた。



「ヤバイ!衣都ちゃん、最高!」





「・・・いや違うんです、

嫌な意味じゃなくって・・・なんていうか」




「いいの、いいの!

こいつはワガママだから!はははっ」




笑い転げるコウさん。


恐る恐る要さんに目をやると、

眉間にシワがよっている。




ーーー明らかに怒っている・・・





・・・・・・マズイ






「要にそんなこと言う女の子なんて、いないからね。あー面白かった!」



そう言ったコウさんはまだ笑っている。



「要さんに言ったわけじゃなくって、独り言みたいなもので・・・!」









「本人目の前にしてりゃ、同じだろ」










ーーー喋った・・・!






要さんの射抜くような真っ黒な瞳に私が映る。



吸い込まれそうな黒ーーー




こんなときだけど、

やっぱりすごく綺麗な顔だと見惚れてしまう。



要さんは、一瞬目を細めたかと思うとすっと視線を逸らした。




「シャワー浴びてくる」





そう言って立ち上がった要さんは、

煙草を咥えたままカウンターの奥に消えていった。




少し胸がドキドキしたーーー・・・・・・









「シャワーまであるんですか?」



残された私とコウさん。



「このBarの四階は、実は寝泊まり出来るスペースになってるんだ。ほぼ俺の家みたいなもん。他にちゃんと部屋はあるんだけど、帰るの面倒で、こっちにいることの方が多いんだよ。」



ーーなるほど。




「要は昨日から徹夜で仕事してて、今日も大事な会議だったらしくて、そのままここに来てあの部屋で仮眠取ってたんだ。これからまた仕事して明日から海外出張らしい。ここに来れば、俺がメシを作ってくれるのをわかってるから、しょっちゅう来るんだよ」




なんの仕事をしてるかわからないけど、そんな一生懸命働いている人に『ワガママ』発言してしまった私って・・・




「あの、ごめんなさい。私、すごく失礼なことを・・・要さんに謝っておいて頂けますか?」

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