第20話

「・・・いただきます」





私の目の前にはコウさん、テーブルの角を挟んだ斜め右にはブラックオーラのヒトが座っている。




「どうぞどうぞ!いっぱい食べてね」




にっこり微笑むコウさん。

相変わらず表情を変えずに食べ続ける、ブラックオーラのヒト。


・・・って名前も知らないし!




このヒトって、金曜日に見たヒトだよね?


顔は見えなかったけど、絶対そうだ。



きちんとスーツを着こなしていた金曜日とは違い、今日はスーツのジャケットを脱いだ白シャツの袖を、クルクルっと捲っている。


ネクタイはなく、

ボタンも2つほど外されている。



一見細いのに、ゴツゴツとした腕。


ソファから投げ出された長い脚。


寝起きらしく、少し無造作な黒髪・・・・・・




ーーー色気がダダ漏れなんですけど!






横目でチラチラと観察しながら、

私なんでこんなヒトとピラフ食べてるんだろうと、冷静になるほど可笑しく思える。



ーー住む世界が違うヒトだと思っていたのに。






「・・・・・・美味しい」




ひとくちスプーンで口にしたピラフに、思わず声が漏れる。こんな状況なのに美味しいと感じるってことは、よっぽど美味しいのだろう。



「おっ嬉しいね、ありがとう」



ソファの背にもたれていたコウさんが、少し前屈みになる。




「このエビピラフ、要が好きでね。よく作るんだよ」



「な?」と斜め前に座るブラックオーラのヒトに話しかけるも、やっぱり表情は変わらなかった。




ーーカナメさんって言うんだ・・・





「・・・エビの出汁がすごく効いていて、味に深みがあるというか、こんな短時間で作ったとは思えないくらい本格的ですね」



「エビミソを使ってるから、濃厚になるんだ。それを短時間で米に染み込ませるコツがあるんだけど・・・・・・衣都ちゃん、料理好き?」



「うーん、昔から家事をやらばければいけない環境だったので、好きってわけではないですけど・・・でも時間があって、ゆっくり誰かの為に作る料理は好きかもしれないです」



誰かと言っても、ほぼミッツだけど。





父親がいなくなってから、フルタイムで働きに出るようになった母親の代わりに、家事は必然的に私の仕事だった。手際が良いほうだから、それほど苦にはならなかったけど。

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