第14話

コウさんに促されて、

カウンター席の隅に座って待つこと数分。



カウンターの奥にあるスタッフルームらしき部屋から戻ってきたコウさんの手には、しっかりと腕時計が握られていた。





「あ・・・・・・これです!私のです!」



母に貰った大切な腕時計。




「そう、よかった」


「本当にありがとうございました!今朝失くしたことに気付いて、仕事中もずっと気になっていたので・・・」



トイレに置き忘れてしまったから、そのまま誰かに盗まれてもおかしくないし。

本当によかった・・・



「大切なものなんですね?

恋人からの贈り物?」



コウさんから腕時計を手渡されながら聞かれた問いに、慌てて首を横に振った。



「違います!母親から入社祝いで貰ったものなんです」



コウさんは、「・・・あ」と何かを思い出したようで、クスクスと笑った。




「そうだったね。彼氏いないんだっけね」





ーーーはっ?



な、なんでコウさんが知って・・・・・・




私が口を開けた状態で固まっていると

コウさんが慌てて言った。



「ごめんごめん!リョウから聞いたんだ。

金曜日の閉店後に、今日カウンターに座ってた子が、すごく綺麗な子だったのに彼氏が長いこといないって聞いて驚いたって。」



リョウって・・・



「・・・亮平君ですか?」



「そう、亮平。リョウがフルネームを名乗るのも珍しいと思ったし、楽しそうに話してるのも見かけてたから覚えてたんだ。今日入り口で見た瞬間にすぐ気付いたよ。・・・・・・僕とも一度、目が合ったよね?」




ーーー覚えてたんだ・・・



「・・・・・・ハイ」




思わず顔が熱くなってしまう。





さすが客商売だなぁ

すごい記憶力・・・


でも相手がこんな王子様だと、

勘違いしちゃう女の子も多いんじゃないかな


天然王子か?




亮平君には、私が4年彼氏がいないことをサクッとミッツが暴露していた。


ーー事実だし、もういいんだけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る