第13話

今はそんなことを

考えている場合ではなかった。




ーー腕時計




昼休みを利用してネットで『Bar Lotus』を調べてみたものの、まったく情報は得られず。


電話番号や営業時間を知りたかったのに。



日を開けないほうが良いだろうと思い、今日の帰りに直接行ってみることにした。






◇◇◇



定時にオフィスを出て、

17時半ごろには駅に着いた。


一人で入るのは緊張するなぁ


でもさすがに今日は月曜日だし、忘れ物を取りに来るだけなのに、ミッツは誘えない。


まぁ誘っても「めんどくさい」と言って、

来ないだろうけど。




『Rotus』のあるビルの前まで来ると、

意を決して螺旋階段を上った。




「あれ?」



入り口のドアの前に立つ。



ーーOPENの看板が出ていない。




休みなのかな?

それとも、営業時間前?



どうしよう。

明日にでもまた出直すしかないかな。


小さく溜息をついて踵を返そうとしたとき、




「すみません、今日はお休みなんですよ」



低すぎず高すぎず、耳触りの良い男の人の声がすぐ後ろから聞こえた。



慌てて振り返ると、

そこにはコウさんがいた。




「あれ?キミーーー」



コウさんの目が僅かに見開く。



「あ!ごめんなさい!実は金曜日にこちらにお邪魔させて頂いたものなのですが、腕時計を忘れてしまったようで・・・」



そこまで急いで言い切ると、コウさんはふっと優しい笑みを浮かべた。


「・・・そうだったんですね。今確認しますので、中へどうぞ」



そう言ってコウさんは入り口の扉の鍵を、

ガチャリと開けた。

左手には何か買い出しをして来たのか、大きめなビニール袋が2袋ぶら下がっている。



「いえ!今日お休みなんですよね?ここで待ってます!」


さすがに中に入るのは申し訳ない。



するとコウさんはもう一度微笑んで、


「探すのに少し時間がかかるかもしれない。その間ずっと女性を外で待たせるのは性分に合わないので、僕の為に入って頂けませんか?」





「〜〜〜っ!」




ーーーなんなんだろう、この人!


どこの国から来た王子だよ!


もしくは何処ぞやの貴族か!



こんな恥ずかしい台詞をナチュラルに言われてしまっては、従うしかないじゃないか!



「・・・わかりました。

すみません、失礼します」



コウさんに続いて、

お店の中に足を踏み入れた。










「あぁ、こちらですか?」

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