第10話

化粧室から出ると、ちょうどVIPルームの扉が開くのが見えた。



そこから3人の男女が出て来た。



この位置からは後ろ姿で顔は見えないが、一人はすごく背が高かった。

コウさんと同じくらいか、それ以上か。


その男性とは別の男女がそのまま出入り口へ向かい、Barを出て行った。カップルなのか、女性は男性の腕に絡みついていた。


残された男性はカウンターの方に歩いて行き、コウさんに話しかけた。






「コウ、帰るよ」





耳に残る、かなり低めな声。




店内にはモダンなジャズが流れていたが、

一瞬音楽が止まったようだった。

男の発した声は、それほど大きくないというのに、なぜかはっきり聞こえたのだ。



男は軽く右手を上げたあと、

そのままBarを出て行った。


顔は見えなかったが、黒髪に高級そうな黒のスーツ姿で、なんだか唯ならぬオーラを感じた。





ーー住む世界が違うヒト





急に同じこの場所にいたのが、不思議に思えたほどだった。





立ち止まったままだった私は、ハッと我に返ると、カウンターの中にいたコウさんと目があった。


コウさんは一瞬目を細めたあと、

にっこりと微笑んだ。





「ーーーっ!」





あの王子スマイルは

ヤバイでしょ!!!




営業スマイルとわかっていても、

自分の顔が真っ赤になるのを感じた。


確かに女性客・・・いいや、男性だってあの笑顔にはヤられるだろう。

亮平君だってそうだったんだ!


ああいうのをキラースマイルって言うんだ!



ナルシストは嫌いだが、

そういうのじゃない。

もっとこう・・・生まれ持った本物の王子様みたいだ。





席に戻ると「遅かったね〜?」とミッツが言ったので、私は「コウさんに殺されかけてた」と答えた。


案の定、はっ?という顔をされたけど。




それからけっきょく忙しそうだった亮平君とは

話すことなく、終電の時間が近づいたので、私たちはお開きになった。

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