第8話

「・・・野々村衣都(ノノムラ イト)です」





こんな初めて来たBarのバーテンダーに、本名を名乗っていいのかと少し不安になりながらも答えた。




「衣都さんか、雰囲気にぴったりの良い名前だね」




そう言った亮平君の笑顔に、名乗って良かったとほっとした。


もともとの性格もあるけど、この歳まで男性経験がないせいか、気付けば警戒心がより強くなっていた。


別に詐欺にあうかもとか、そこまで思ってるわけじゃないんだけど。


こんなんで、軽い付き合いなど出来るわけがない。ミッツが言うように、自分でも自分がめんどくさい。





それから暫くミッツの亮平君への怒涛の質問攻めが続き、短時間の間にいろいろわかった。



ここのBar『Lotus』は2年ほど前にオープンしたばかりで、亮平君はオープン時から働いているそう。

いつか自分のお店を持つために修行中らしい。


そして・・・


3年付き合っている彼女がいるそうだ。




「時間のすれ違いとか大変そうだよね〜

カノジョ、よく我慢できるね?私はムリ!」



彼女持ち、しかも3年の、という事実がわかってからのミッツは早い。

気持ちが悪いほどの猫撫で声から、いつもの毒吐きミッツに戻る。


亮平君を『男』として認識しなくなったのだ。




亮平君もミッツのあからさまな態度の変化に気付いたようで、

「そうだね、寂しい思いはさせてるかもね」

と、苦笑しながら答えていた。




媚びる女はキライだけど、ミッツのようなスパッとした態度は返って気持ちが良いし、見ていて面白いから好きだ。


それに、ミッツの猫撫で声に引っかかる男は、まず見たことがない。

引っかかるとすれば巨乳?


それでもやめられないのは、

ミッツ曰く『雌の本能』だそう。

・・・よくわからない。



でも男女問わず友達が多いミッツは、私の自慢の親友なのだ。




その後、他のお客さんに呼ばれて亮平君は、あとでねと言って私たちの前から去っていった。

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