第51話

カレンは自分の上着を脱ぎ、真緒の膝に乗せる。





血を流しすぎて、目眩がしてくる。


カレンを行かせてはだめ…

来栖に見つかったら殺される。

頭の中で危険信号が鳴った。




「すぐに助けを呼んで来るから、来栖も逮捕してもらおう!」



カレンは真緒を勇気づけるために、わざとおどけた調子で言う。


真緒はカレンの体が震えている事に気付いていた。


カレンも、今のこの状況が怖いのだろう。


「カレン…私も行くから…。」


「駄目!真緒は、じっとしてて。

大丈夫、今度は私が真緒を助けたいの!」


カレンの目には涙が溢れていた。

涙の意味は罪悪感なのか、恐怖なのかは分からなかった。



「…分かった…。」


「うん!行ってきます!」


辺りの様子を窺いながら、カレンは目立たないように動く。


カレンの後ろ姿を見送りながら、真緒は壁にもたれかかった。



全く、とんでもないことになってしまったと自虐的になる。


まさか、自分が刃物で刺され、血だらけになるとは予想もしなかった。

そして、吸血鬼らしい人物に命を狙われるとは…

もう、日常が普通ではなくなってしまった。



「とんだ日だわ…目眩はするし、血だらけだし…。」



ルキと初めて出会ったとき、ルキが血だらけでびっくりしたっけ…


ふと、ルキの顔が思い浮かぶ。



「ルキ…どうしているかな…

もう、死ぬのかな…」


このまま、出血多量で死ぬかもしれないと嫌な考えが頭に浮かぶ。



「ルキがこの世界の人で、普通に出会えていたら良かったのかもな…はは…」



ダメダメ!弱気になったら!

カレンが助けを呼びに行ってくれているのに…



頭を振り、雑念を振り払う。














ーーーーーー




来栖は翼を広げ、優雅に飛んでいる。



「うーん…どこに居るのですかー…

佐藤真緒さん…貴方を早く手に入れて、この身に血を入れたい。

考えただけで喜びに、この身が震えますね。」



キョロキョロと街並みを見る。



「クク…カレンさん、見つけましたよ。

あーあ、簡単すぎる。

この世界の人は能力が低い。」


走るカレンの様子を空から、優雅に鑑賞する。


「うーん…そんなに必死に走って、何をしているんですかね?

ま…どのみち、その努力は無駄になりますがね…。」


不敵な笑みでカレンを見つめる。


「まっ…美女の血を先に頂くとしましょうか。

疲労回復効果くらいはあるかもしれない。」


来栖はカレンに狙いを定め、カレンに向かって急降下して猛進する。

それは狩りをするハヤブサのようだった。




ザシュッ!!!


鋭い爪がカレンの胸を貫いた。


「キャアアア!!」


カレンの悲鳴が暗闇に響く。


「カレンさん、見つけましたよ。

佐藤真緒さんはどこに居るかご存じですよね?」


冷酷な瞳で来栖が問う。


「しっ…知らないわ!」


痛みに顔を歪ませカレンは必死に首を横にふる。


「なら、血だけ頂きましょうか。

後は眠っていてください。

永遠にね………。」



来栖は口を開け、カレンの首元に容赦なく噛み付く。



「あ…」


カレンの瞳が色を失って…


ゆっくりと体がうなだれていく。



「うん…まあまあですね。

佐藤真緒さんのあの芳醇な香りの血に比べたら、今まで飲んだ血より少し上か…

そんなところか…。」


来栖は興味がなくしたように、カレンの体を投げ捨てた。


ドサッと音を立てて、カレンの体は地面に横たわる。



「さあ、探してあげますよ。」


軽い足取りで来栖は歩く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る