第30話

「柊木さん、もし、現実にありえないようなことに次々に遭遇して、その協力を申し込まれたらどうします?」


なるべくオブラートに包んで言った。


「例えば…スパイ活動とか?」


「うーんまあ、詳しく説明は難しいんですが。」


「面白そうだね!俺なら、協力しちゃうかも!」


「えー…軽いですね。」


さすが営業というべきか…フットワークが軽い。


「映画の話みたいだね。

二重生活って憧れるよなー…表は会社員、裏はスパイ。

一度はやってみたいと思った。」


「柊木さんって意外とそういうの好きなんですね。」


「うん。ワクワクしていいよね。

で、佐藤さんは悩んでいると…。」


「まあ…はい、そうですね。」


「協力を申し込んできた人は、きっと、佐藤さんじゃないと駄目だから頼んだんじゃないかな?」


「確かに…そうですね。」


「仮に、俺が佐藤さんと同じ立場だったら、協力するかな。

だって、貴方じゃないと駄目と宣言されているんだから。

例え、どんなにビックリすることに遭遇しても、受け入れるかな。

現にそれが佐藤さんの目の前で起こっているんでしょ?それらに、うまく対処をする術を考えるかな。

それに、困っている人を見過ごせるほど、俺は善を捨てたくはない。

なるべく、助けてあげたいし、その悩みが少しでも俺で解決するのなら、喜んで協力したい。」


「…さすが、柊木さん…。」


「でも、それが人に危害を加えることなら、駄目だけどね。」


「それはないと思いますが…。

ありがとうございます。

受け入れる…なるほど。

現実に起こっているのですから、それにうまく対処する術を考える…。」


「前向きに考えて、今の佐藤さんにできる限りの対処をしてみたらどうかな?」


「私、少し、悲観的になっていました。」


「悩みって悲観的になるよね。

でも、悲観的になるよりはそれを貴重な体験としてとらえてはどうかな?

だって、佐藤さんしか経験できないことだし。」


「そうですね…なんか、頑張れそうです。」


「良かった。

佐藤さんが元気になったところで、さあ、飲もう。」


「はい!」


2人のグラスが音を鳴らした。

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