第6話
今日は優雅な夕飯にしようと思ったんだけどな。
ワインを飲んで、同僚の飯田カレンとのメールのやり取りを楽しもうと思っていた。
しかし…
なぜ、こんな状況になっているのか。
後ろには、赤い瞳の男が後ろをついてくる。
逃げ出さないか、完璧に監視されているよね。
ちらっと後ろを振り向くと、ルキは怖いくらいの笑顔を振りまいている。
『その笑顔が恐怖でしかないよー。』
真緒も愛想笑いで返す。
社内人気1,2を争う柊木さんとの外回りの事が遥か昔のことに感じられるくらいに、今、この瞬間が非現実的だ。
そんなことを思いながら歩いていると、アパートの前に来た。
「ここが私の家です。」
そう言って2階建ての奥の部屋を指差した。
「へえー…結構、綺麗な建物だね。」
「そうですね。まだ、築5年くらいだそうです。」
「さ、早く入ろうよ。」
「夜なので、静かに目立たないように。」
こそこそ二階の階段を上がろうとした時…
「真緒ちゃん!おかえり!」
「松田さん!」
突然、大家の松田芳子に声をかけられた。
タイミングが悪い。
いや、非常に悪い。
なぜ、今なんだと真緒は思った。
いつもなら、私が家に入ったのを自分の一階の家から観察して、確認が出来てから訪ねてくるのに。
きっと、この男と居るせいだ。
大家さんの探りグセが作動している。
「真緒ちゃん、今日、親戚からお米が送られてきたんだけどね。
私、一人暮らしで年寄りでしょ?
もう、食べられなくて、良かったら貰ってくれないかしら?」
「あははー…はい、頂きます。ありがとうございます。」
「まあ、ありがとう!助かるわー…あらッ!!」
松田芳子はわざとらしく声を上げ、ルキの方を見る。
「まあー!真緒ちゃん、このかっこいい人は誰なの?」
キラキラした瞳で大家さんが聞いてくる。
「あー………」
説明に困る。
だって、脅されているし。
まさか見知らぬ男を部屋に上げるなんて知られたら…ご近所に噂が一気に広まる!
一気にふしだらな女という噂が広まりかねない。
「この男の人はですねー…」
「初めまして!松田さん。俺は真緒先輩の大学時代の後輩でルキって言います。
田舎から上京してきたんですが、今日、入居するはずだった部屋がガス爆発して、住めなくなったんです。
誰にも頼れなくてダメ元で真緒先輩に連絡したら、真緒先輩が泊めてくれるということで、今日は真緒先輩にお世話になるところなんです。」
好青年だけど、事件に巻き込まれた悲劇のヒロインのような哀愁を漂わす。
松田芳子の瞳から一粒の涙が頬を伝う。
「な…なんて可愛そうなの。
災難だったね。田舎から上京してきて住む家が無いなんて…
私に協力できることがあったら何でもするからね!」
「はい、ありがとうございます。松田さんって、とても心の優しい方なんですね。」
ルキはそっと松田の手を取ってぎゅッと握る。
「はっ!やだね~、ルキくん。そんな事言われたら、おばちゃん何でもしてあげたくなっちゃう。」
「俺の本心ですから。」
ほんわかした空気がルキと松田を包む。
真緒はぞっとしていた。
松田さんをいとも簡単に虜にしている。しかも、松田さん、この、ルキって男に違和感を感じていない?
鈍い…。
それか、イケメンなら何でも良いのか?
それにしても、ガス爆発って…大規模な嘘だな。
今の日本でそんなことがあったらトップニュースになること間違いなしだろう。
あれ…?
今、この男、泊まるって言った?
冗談だよね?
まさか~…?
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