第5話
『聞いたらまずかったの?え…?カラコンじゃなかったの?』
真緒は気まずくなった。
聞いた自分に後悔した。
ひんやりとした風が真緒を包んだ。
「あー…。まずはさー、自己紹介しなくちゃね。俺はルキ。
よろしく。お姉さんの名前は?」
「え?あ、私は佐藤真緒です。」
「よろしく、真緒!」
「え?は、はい、よろしく。」
「あのさ、ここ、公園なんだけど、人目が目立つんだよね。
今は暗いからあまり俺の姿が良く分からないんだけど、明るいところに行くと目立っちゃうんだ。」
「はあ~…。」
「だから、端的に言うとさ、お姉さんの家にいかない?」
「はっ!?」
この男はなにを言っているのだろうか?
「新手のナンパ?」
「ナンパって何?食べ物?」
「ナンパを知らないんですか?」
「知らない。なにそれ?」
「知らないなら良いです。」
発言した自分に恥ずかしくなる。ナンパじゃないならなんだと混乱する。
家に行きたいって、なんの冗談かな。
「お姉さん、見た限り、男居なさそうだし。一人暮らしでしょ?」
「なんで知ってるんですか!!!??」
思いっきりプライバシー侵害をされている。
「直感かな?」
「直感とか言われて信用できますか?」
「たまたま予想が当たっただけ。あ、警察に通報するのは無しね。みんなぶっ殺しちゃうから。」
赤い瞳が怪しく光った。獲物を狩る目だ。
「え…‥‥‥‥‥。」
「はは!冗談冗談。」
口は笑っているが、目がピクリとも動かない。
「…。」
やっぱりヤバい系だった。
少し興味を持ってしまった自分を呪う。
「そんなに怖がらないで。俺、全然怖くないよ。」
ルキという男は得体のしれない男だ。
ここは、従ったほうが良いかもしれないと、本能が言っている。
「分かりました。ルキさんが怖くないのは理解できました。」
我ながら女優ばりの嘘つき発言だ。
「本当に!?ありがとう。理解してくれて嬉しいよ。」
「で、私の家に行ったら事情を話していただけるという保証はありますか?」
「何でも話すよ。血を欲しがったことも。」
「でも、事情を話して頂いたら、すぐに帰ってもらいます。」
「………。」
無言が続く。
「…………………分かった。」
非常に気になる間があった。
「本当に帰ってもらえますよね?」
ルキは視線を道路の方に向ける。
「真緒が不安なのは分かるけど、帰るから。早く行こうよ!」
なんでこの男はウキウキわくわく楽しげにしているのだろう?
この男の考えていることが全く読めない。
ペースを持っていかれる。
『真緒、しっかりしろ!社会人だ!流されてどうする!?この場を支配しないと!支配権は私にあるのよ!』
自分を奮い立たせる!
「1時間で帰ってもらいます。」
「厳しいね。俺、説明が下手だから時間がかかっちゃうよ。」
「う…。」
「さあ、案内して。」
負けた…交渉に負けた。
完全なる真緒の敗北だった。
人質のような気分になりながら、覚悟を決める。
「分かりました。ここは近所の公園ですね。
私の家はあのアパートです。」
真緒は水色の変わった建物を指差した。
「見えますか?」
「うん、見えるよ。」
「行きましょう。」
「うん。あと、これ、真緒が持っていた食べ物が入った袋。」
はいっとテイクアウトをした品物が入った袋を渡された。
食欲がないが、受け取る。
「ありがとうございます。では、行きましょう。」
真緒が先陣をきって歩き出す。その後ろをルキが歩く。
まるで、監視されているような気分だ。
ここで逃げたら殺される?
ゾクッと身震いする。
「寒いの?大丈夫?」
「だ…大丈夫です。」
「そう…。」
無言が続く。
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