第36話

「ナイフで脅さないといけなかったのかな⁉︎」


眞帆が大胆に女と距離を縮める。



「ケッ、ケイさん、女には連絡先教えないって有名だから!

だから、誰もいない夜道でちょっと脅して聞こうとしたの!」


「一体なんのために?

普通に聞いてみたらいいじゃないですか?」


「そうだよ。

脅して聞いたら、絶対に教えてくれないよ。」


「ケイさんのことがずっと前から好きだったんです!

だから、ケイさんと仲良くなりたくて…

好きな人に近づきたいのに…

私、こんなやり方しか思い浮かばなくて‼︎」


ズキっと女の言葉に胸が痛む。


好きな人に近づきたい…けど、それは難しいことで、どうしても一方的になってしまう。

莉蘭には痛いほど女の気持ちがわかった。



「…貴方の事情は分かりました。

けど、ケイさんは凄く怖がってます」


「えっ⁉︎

そうなんですか⁉︎」


「はい。

今のままでは、近づくどころか、一生ケイさんに近付くことは難しいかもしれません」


「そんな…!」


女は取り返しのつかない事をしてしまったと今、気付いた。


「どっ…どうしよう…

ケイさんに近付きたくて勇気を振り絞ってやっと、行動に移せたのに…

私…ぅっ、あー、あー!」


カランとナイフが手から落ちた。

そのまま、女は地面にへたり込む。

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