第67話

初めて見るその表情に、乙葉はスケッチブックにその表情を描き出す。


きっと、この表情が見たかったんだ…。

いつも、真剣に弾いていたけど、今の方がずっと素敵だ。

何かの重みが取れたみたい。

穏やかな表情。



演奏は静かに終わりを告げた。


「聖城さん…有難う御座います。」


乙葉はパチパチと拍手をする。


「気に入ったか?」


「勿論です!こんなに、贅沢で素敵な時間を過ごせるなんて、私は世界一の幸せものですね!」


「大袈裟すぎるだろ。

でも、有難う。」


聖城は照れた様に少し笑った。


「あっ、夢中で描いてたら、鉛筆が無くなちゃった…続きを描きたいんだけどな…。」


乙葉は困った様に眉毛をへの字にさせる。


「今から買いに行くか?」


「え?」


「買い物くらい、付き合ってやる。」


聖城は椅子から立ち上がる。

どうやら、もう、行こうとしている様子だ。


「はっ、えっ?」


乙葉は呆気にとられる。

聖城はそのまま、音楽室から出て行った。

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