第66話

「今日は絵咲さんのために弾こうか?」


「え?」


思いもよらない言葉に、乙葉は吃驚する。



「ルミ子さんに悪いんじゃ…。」


「あのパーティーで弾いたときから、ルミ子との約束は終わった。

今は、水曜日に弾く事が習慣になってるだけだ。

だから…いいんだ。それに、今はお前のために弾きたい気分なんだ。」


聖城は爽やかに笑った。


「じゃ、じゃあ、“エリーゼのために”をリクエストします。」


「分かった。

今の俺の気持ちを音にのせて、弾くからな。」


「はっ、はい!」


聖城は目を閉じて、呼吸を整える。


そして、ゆっくりと優しく鍵盤を押すと…

優しく、癒しのメロディーが彩りを与え、乙葉の耳を幸福の気分にさせる。


繊細だけど、愛に溢れている、今の聖城を表しているピアノの音色だった。




「あー…。」


聖城さん、楽しそうに弾いている。

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