第65話
「そして、なぜ、学校で弾くのか…
それはな、家で弾くと、ルミ子から言われた言葉を思い出すからなんだ。」
ルミ子はいった。
『琴臣の演奏は私だけのもの。私以外の人のために弾かないでね。』
俺はルミ子と約束してしまったから、人前で弾く事をやめた。
そして、ルミ子の言葉をずっとリピートし、俺は自分で自分を縛り付けてしまっていた。
でも、心の奥底では、そんなのは間違っていると思っていた。
「聖城さん…」
「学校だと、ルミ子と縁もゆかりもない場所だから、思いっきりピアノを弾ける…
でも、完全にはルミ子を忘れられない…だから、水曜日に弾いてしまうんだ。」
「そうだったんですね…私に教えてもよかったんでしょうか?」
「ああ、お前になら…。」
聖城は乙葉を見つめた。
その瞳があまりにも悲しそうで、乙葉は複雑な気持ちになる。
ルミ子って人が今でも好きなんだって思ってしまった。
一宮さんや聖城さんが惚れた女の人。
きっと、今も生きていたら、こんな風に聖城さんは音楽室でピアノを弾くことはなかった。
「水曜日に聖城さんが音楽室でピアノを弾かなかったら、今、ここに一緒にいることはありませんでした。
聖城さんと出会ったから、私は再び、絵を描く一歩を踏み出す勇気が湧いたんです!」
聖城はただ、黙って聞いていた。
「だから、この、素敵な出会いをくれた、ルミ子さんには感謝しています。」
「‼︎」
そうか、俺がここでピアノを弾く事で、
誰かの救いになっていたのか。
全く、思いもよらない返答をする子だな…。
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