第50話

「…ありがとうございました。」


小室は演奏が終わり、椅子から立ち上がった。


ブラボーと声援と拍手が鳴り止まない。


小室はニヤリと笑う。


そして、聖城をみつめ…


「どうだ、聖城君、君も弾かないかい?」


挑発するように言った。


「いや…俺は弾かない。」


小室から視線をそらす。


「ルミ子と言ったかな?まだあんな女の言葉の呪縛に囚われているのかい?

君の演奏はルミ子という女のものらしいな…残念だよ、聖城君。

君は永遠にルミ子の為に聴かれもしない孤独なピアノの演奏会をしているといいよ。」


クっと喉元で笑いながら、小室はキツネの目を鋭くした。


「ちょっと、小室さん、言いすぎじゃないでしょうか!?

聖城さんだって、事情があるんです!

誰のために弾くとかそんなの自由じゃないですか!?」


乙葉はムッとして小室に言い放つ。


「君は…絵咲さんといったかな!

良いかい、聖城君はずっと過去にとらわれて成長も進歩もしない残念な男なのさ。

今、僕はそう判断させてもらった!」


小室の言葉に、聖城は目を見開く。

そして、睨む。


「…な、なんだい?」


聖城の視線に、小室はうろたえる。


「いいだろう。

一曲弾こう。」


聖城はグランドピアノに向かって歩く。


会場の人達は、その様子を黙って見ていた。


「聖城さ…」


乙葉は不安な表情を浮かべる。

聖城は乙葉に一瞬目を配ると、密かに笑う。


‘’そこで見ていろ“

と言われているような気がした。

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