第36話

「まー、乙葉、この荷物はなんなの?」


乙葉の母親が何事かと、様子を見に来た。


「お母さん、これは絵を描くための道具よ。

頂いてきたの!」


「まあ、こんな高級そうな道具を?

こちらの方から頂いたのかしら?」


「初めまして。

聖城琴臣と申します。

乙葉さんとは友人として、仲良くさせてもらっています。

こちらの画材道具一式は私の友人が差し上げたものです。」


「まー、そうでしたか。

乙葉、素敵な方から頂いたのね。

ここまで運んでいただいたんですから、お茶でも一杯飲んでいかれませんか?」


母親がいい気を利かす。

乙葉は感動して、母親を尊敬の眼差しで見た。


「せっかくのお誘いですが、外に車を待たせているので、失礼いたします。」


聖城は軽く礼をする。


「まあ、残念ですわ。

今度はゆっくりといらしてね。」


「はい、次、来たときはお邪魔させていただきます。

絵咲さん、また学校で。」


聖城は絵咲家を後にした。


乙葉は家に上がる。


「ちょっと、乙葉!

あんな友だちがいるなんて聞いてないわよ!何処からどう見ても育ちの良いお金持ちの子じゃない!しかも、車を待たせているって何よ、運転手付き!?

お母さん、緊張で吐きそうだったわよ!」


「聖城さんってやっぱりそうなんだ…」


「そうよ!かなりの上流階級の子じゃないかしら?

乙葉、本当に友人なの?」


「え?友人なのかな…?

でも、絵のモデルを頼んでいるの。」


「そうなの…まぁ…失礼のないようにお付き合いしなさいよ。」


「はい、分かりました。」


「でも、良い子そうだったわね。ああいう子とお付き合いするのは安心だわ。

乙葉…頑張りなさい!」


「お付き合いって…聖城さんとはそんな関係じゃないよ。

私は絵を描かせてもらっているだけ。

ただ、それだけ…今のところは…。」


「ふーん。」


母親はニッコリと意味深い顔で笑った。


どうやら、応援してくれるみたいだ。

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