貴方が弾いていたから

第32話

「まあまあ、和美、聖城にも事情があるんだよ。

そう、責めてやるな。」

「お兄様…はい、わかりました。」

「あ、絵咲さん、終わったのか？」

聖城は椅子から立ち上がり、乙葉に近づく。

「はい、一宮さんのおかげで、いい刺激を頂く事ができました。」

「そうか。

それにしても、その画材道具はなんだ？」

「一宮さんにいただきました。」

「重いだろう？

少し持ってやる。」

ひょいっと道具を乙葉から取ると、手に持った。

「へーぇ…聖城やるね。」

一宮は聖城の意外な行動に目を見張る。

「え、そんな、聖城さん、自分で持ちます。」

「これくらい気にするな。

さ、帰りは迎えの車を呼ぶか。」

「聖城の運転手に連絡しといたよ。

乙葉ちゃんが帰りの手荷物が増えたからね。」

「流石だな。

有難う。

絵咲さん、行くか。」

聖城は玄関に向かって歩き出す。

遅れを取らない様に、聖城の後を追う。

そして、玄関に着くと、聖城の専属の運転手が待ち構えていた。

「一宮、またな。」

「また、来るといいよ。

乙葉ちゃん、頑張ってね。」

「はい、一宮さん、今日は有難うございました。」

「じゃあね！」

「琴臣、また遊びに来て！

あと、絵咲さんも…今度はじっくり、お話ししましょう。」

怖いくらいの笑顔で和美は手を振った。