第31話

優しいメロディーは私の心を優しく包み込んで癒してくれる。


ピアノが置いてある部屋に来た。


聖城は1人の世界に入って優雅に弾いている。

和美は遠くから、聖城の邪魔をしないように見つめているようだった。



「聖城…弾いてるな。」


「そうみたいですね…。」


乙葉は穏やかな笑みで一宮の問いかけに答えた。


「…その顔…。」


一宮はその表情に愛しい人の面影を見た。


似ているかもしれない…

そっか…君が生きていたら、こんな女性に成長していたのかもしれないな…

君にはもう、会えないけど、似た人は居る。

それだけで、僕はまた、君に近づくことが出来る。

創造を重ね、キャンバスに創り上げていくことによって、いつか完成体になる。


「一宮さん…私、聖城さんのピアノに救われたんです…。」


「そうなんだ。

良いと思うよ。

聖城のピアノは癒しだからな…。

僕も癒されるなー。」


しばらく、黙って演奏を聴いていた。


そして、ピアノの演奏が止まる。


「ー…ああ、お前たちは黙って聴いている事しか出来ないのか?」


聖城は黙って聴いている3人に対して、不機嫌にムスッとした。


「聖城の素晴らしい演奏を誰も邪魔したくないのさ!」


「はあ…何か言ってくれたらいいのにな…。」


「だって、何か言ったら、琴臣は弾いてくれなくなるでしょう!?

ミーは琴臣の演奏を聴きたいの。」


「…人に聴かしたくて弾いているわけじゃない。」


「琴臣、どうしてなの!?

昔は沢山弾いてくれたのに…」


「昔と今は違うんだ。」


「琴臣…」


和美はショックを受け、泣きそうな顔で聖城を見る。

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