第28話

「中学三年生の時、病に倒れて、そのままこの世を去ってしまった。」


「ー…そうなんですか。

その人のこと、好きだったんですね。」


「ああ、愛していた。

きっと、聖城も彼女の事を好きだったんじゃないかと思う。」


「聖城さんも!?」


「本人は絶対に言わないと思うけどな。」


「そうなんだ…。」


聖城さんの好きな人…

話してみたかったな。きっと、素敵な女性だったんだろうな。



「乙葉ちゃんは知っているかわからないけど…

聖城は小さい頃からピアノが得意で、コンクールに出る度、優勝した。

優勝するたび、彼女が笑うから、聖城は彼女のためにコンクールに出続けていた。」


「やっぱり、聖城さんの実力は本物ですね。」


「そうだね。聖城の腕前はプロに近いかもしれない。

けどね…彼女がこの世をさった後、聖城は人前でピアノを弾くのをやめてしまった。」


「そんな…あんなに素晴らしい演奏をするのになぜ、やめてしまったんでしょうか?」


「それは聖城にしか分からない。

僕はピアノなんて弾かないからね!」


「聖城さん…何があったんだろう。」


「乙葉ちゃん、聖城の事、気になるの?」


「え?」


「聖城はあまり、自分の事は話さないかもしれないけど、もしかしたら、乙葉ちゃんには…話す時がくるかもしれないね。」


「…そんな時が来ると…いいですね。」


自信がなさげに乙葉は言った。

一宮はニッコリと笑って、パンッと手を叩く。

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