描くということ

第27話

アトリエは広く、いろんな絵が飾られていた。


「凄い!この絵なんて見惚れちゃうな…。」


乙葉はキョロキョロと顔を動かす。


「そう?ありがとう。

主に、今まで自分の目にした美しい風景を描いているんだけど、今は人物画に力を入れているんだ。」


「なぜ、人物画に力を入れているんですか?」


「そうだね…愛しい人を思いながら線を一本と描くことによって、魂を揺さぶる情熱的な作品が出来るような気がして、その挑戦をしている。」


「一宮さんから熱を感じます。」


「なんたって、自分の愛している人を描くんだ!熱が入るよ!!!」


一宮は嬉々として熱く語る。


「試作品とかはあるんでしょうか?」


「ああ、これがそうだよ。」


一宮はキャンバスを持ち、乙葉に見せる。


「ふーん…これは油彩画…こういう描き方があるのか…綺麗…。」


乙葉はまじまじと油彩画に注目する。


「ちなみに、この美しい女性は……?」


「ああ、昔よく和美と聖城と僕とその子の4人で遊んでいた子だよ。」


「あ、こんな人なんですね!すごく綺麗な人ですね…。」


「そう、僕たちと一緒に歳を重ねていたら、こんな絵のような素敵な女性に成長していたと思うんだ。」


一宮の言葉に引っ掛かりを感じた。


「どういうことですか?」


「この絵はね…僕の想像で描いたんだ。」


「え…!?」


「このモデルの子はね…もうこの世には居ないんだ。

けど、この絵の中で彼女は生き続けている。」


「!!」


一宮の言葉に乙葉は言葉を失う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る