第25話

「やぁ、待ってたよ。」


品がよく、優しそうな顔をした長身の男が出迎えた。


「邪魔する。」


聖城はそう言って、中に入る。


「お邪魔します。」


「あー、君が聖城から聞いた、絵の上手い子だね。」


フワリと男は笑顔で乙葉に言う。


「今日はお招きいただき、有難うございます!」


「ははっ、そんなに緊張しないで。

どうも、はじめまして、一宮和輝です。」


「絵咲乙葉です。

今日は宜しくお願いします。」


軽くお辞儀をする。


「これはこれは、礼儀正しい子だね。

どう、僕と今度ご飯でも行かない?」


「え?」


乙葉はキョトンと一宮を見つめる。


「一宮、こんなところで口説かなくても、困ってないだろう?」


目つきをキツくし、聖城は言った。


「ごめんごめん、可愛かったからつい、癖でね。

乙葉ちゃん、僕は画家として主に関東を中心に活動しているんだ。」


「凄いですね!」


「まあ、まずは僕の作品でも…」


「おにーさまー、琴臣が来たって本当!?」


くるくるゴージャスな巻き髪の乙葉と同い年くらいの女が走ってきた。


「っ!?」


聖城はげっと顔をしかめる。


「琴臣!!ウエルカムよ!!」


女は輝く笑顔で聖城を見つめると、勢いよく抱きついた。


そして、ほっぺたにキスをする。


乙葉はビックリして、固まる。


「あーもう、離れろ!

ここは海外じゃないんだ、引っ付く必要はないだろう!?」


「オーノー…琴臣の恥ずかしがり屋さん!

ミーは一ヶ月前までフランスに居たのよ、コレくらいノーノー。」


聖城は嫌そうに和美から距離を取ろうとする。


「和美、ここは日本だよ、いつも控えなさいと言ってるだろう?」


「はーい、おにーさま。」


「いい子だね、和美。

乙葉ちゃん、この子は僕の妹で、フランスから一時帰国しているんだ。

この通り、スキンシップは激しいが、いい子だから、引かないでやってくれ。」


「はい、よろしくお願いします。」


「おにー様…この女の子はお兄様のお友達かしら?」


「いや、聖城のお友達だよ。」


「え…琴臣の女友達!?

そんな…おんな!?」


「失礼なやつだな。

俺に女友達がいたら変なのか?」


「だって、琴臣が女の子と仲良くなんて今まで聞いたことがない…オーマイガー!」


「ったく、付き合ってられないな…

一宮、早く絵咲さんを案内してやってくれ。

俺は、ピアノを借りる。」


「はいはい、聖城の為に調律しといたよ。」


「ありがとう。」


聖城は軽く微笑むと、廊下を歩く。


「琴臣ー、ミーのリクエスト曲を弾いて頂戴ー!」


「嫌だ!なんでお前のために弾かないといけないんだ!」


「ノー!ケチぃ!」


言い合いをしながら、和美は聖城の後を追った。



取り残された乙葉は圧倒されていた。

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