第23話

いやいや、これはきっと、気の所為…

聖城さんも歩きたい時があるのよ。

だって、今は春だし!


「…あ。

悪い、ヒールで来るとは思わなかった。

歩くのは辛いよな。

車を呼ぼうか。」


「へ、平気です!

私も聖城さんと歩きたいと思っていたんです!」


乙葉は声をはりあげる。


「そんなに歩きたいなら、このまま歩くか。」


「はい!」


乙葉は笑顔で答えた。

そんな乙葉に聖城は気分が良くなる。


そして、2人は一定の距離を空け歩き出す。


春のまだ冷たい風が吹雪いていた。


「絵咲さん、今日の服はお洒落だな。」


「え!」


「似合ってる。」


真っ直ぐと目を見つめながら褒め言葉を言われる。



「ありがとうございます。

聖城さんもいつもと雰囲気が違って、とても素敵です。」


「そうか?

ありがとう。」


2人褒め合い、なんとなくお互い照れる。


まさか、最初の頃はこんなに話す事が出来るなんて想像ができなかった。

ただ、聖城さんのピアノを聴くことが出来ればいいと思っていた。

それが、私の心のオアシスだったから。

でも、こうして聖城さんと一緒の時間を過ごすことが出来て幸せ。


「そういえば、こうしてまともに話すのは初めてだな。」


「そうですね。

いつも聖城さんはピアノに夢中ですもんね。」


「お前と会う為じゃなく、ピアノを弾きに音楽室に来てるんだから、当たり前だろ。」


「私はお邪魔している立場ですからね。」


「そうだよ。

ただ、今は絵咲さんの存在は別に邪魔にならないからいい。

最初の頃はいつ文句を言ってやろうかと思っていたけどな。」


「ストーカーみたいに、勝手に聴いていたんですから文句を言われても仕方ありません。」


「今は勝手に聴いていたのが絵咲さんで良かったと思っている。」


「えー…。」


「別に深い意味はないぞ。

絵を見れるからいいってだけだ。」


「そ、そうですよね!

聖城さん、私の絵が好きですもんね。」


「そう、お前の描く絵が好きなんだ。」


ツンっとした態度で言われた。

乙葉は苦笑いする。

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