第18話

乙葉の様子に、聖城は何かを感じ取った。


「…不躾な質問だったな。

すまない、今のは忘れてくれ。」


「あ…ちが…!」


乙葉は聖城の手をとる。


「え、絵咲さん!?」


突然のことに、聖城は目を見開く。


「違うんです…言いたくないわけじゃなくて…

言ったら嫌われてしまいそうで…」


そう言って悲しそうに表情を曇らせる。


悲しそうな表情はあの時、最後に見たあの子の表情と重なった。


そんな顔は見たくないし、させたくない。


「そんな顔をさせるくらいなら、無理に言わなくてもいい。」


たまらず、顔をそらす。


「…聖城さん、嫌いにならないで下さい…」


グッと握る力を強める。


「…絵咲さん…?」


その手は震えているようで、俺は複雑な気持ちで、その様子を見ていた。


彼女は喋り始めた。


「絵を描くのが好きで、中学生の頃は美術部に入っていました。

でも、あることがきっかけで、美術部をやめて、人前で絵を描くことも作品を発表することもやめてしまいました。」


「…あること?」


「中学の時に好きになった人をえがいたノートを落としてしまって、それを拾った男子にからかわれてしまったんです。

その男子は好きな人にも見せて、好きな人は私の目の前で気持ち悪いと罵り、ノートをビリビリに破いたんです。」


「…酷い事をするんだな…。」


「その出来事がトラウマになって…

今はこの通り、趣味でやっているようなかんじです。」


「絵咲さんは人の作品を馬鹿にするようなやつの為に、自分の好きな事をやめたのか?」


「え…どういうことですか?」


「そんな低能なやつらの為に、好きなことをやめたのかって聞いているんだ。

描くのが好きなんだろ?」


「……それは…。」


聖城さんの言葉が胸に突き刺さる。

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