第8話
「はあ…」
気が抜け、その場にへたり込む。
初めて好きな人に絵を褒められた。
こんなに嬉しい事があるだろうか?
再び、絵を描いてもいいんだ。
自由に描いていいって言ってくれた。
ノートを開いて聖城さんが弾いている姿の絵を見る…
ピアノを弾く聖城さんはまるで天使だ。
もっと、綺麗に聖城さんを描きたい
私の手で…描く。
あ…
そういえば、翔太を待たせていることを思い出した。
急いで駐輪場に向かう。
「乙葉、遅すぎ!」
「翔太、ごめん!」
「帰るぞ!ほら、後ろ乗れ!」
「うん!」
ニコッと笑って、翔太に掴まる。
「乙葉ー…なぜか、ご機嫌だな!
なんかあったのかよ!?」
「うーん…そうだね、あったのかも!」
「なんだそれ?
意味わかんねー。」
「もう、翔太、前見て!」
「はいはい。」
自転車は軽快に動き出す。
車を追い抜く。
「翔太、飛ばしすぎー!」
「うるせー、早く帰りたいんだよ!」
待たせた分、パン10個奢れよな。」
「欲張りすぎ!」
ギャーギャー言い合いをしていると、窓が開いた車とすれ違う。
「あ…」
聖城は乙葉をチラッと見た。
一瞬、目が合う。
さっきまで、私はこの人と話していたんだ…夢のようだったな。
車は乙葉達を追い抜いていった。
聖城さん…車で通学してるのかな…?
「車通学かー…アイツ、3年の聖城ってやつだな。
ピアノが上手いらしくてファンクラブがあるらしいな。
クラスの女子も騒いでうざったいんだよ。関わりはないけどいけすかねー。」
「へえ…」
まさに、今、目の前にいる私が聖城さんのファンになっているとは翔太に言えない。
バカにされてしまう。
バレないようにしないと。
「ねえ、翔太、毎週水曜日は別々に帰らない?」
「は?どうしたんだよ!
なんか用事でもあるのか?」
「うーん、まあ、そんなとこ。」
「ふーん…別にいいけどよ。」
翔太は少し落ち込み気味に返事を返した。
「ごめんね。」
「気にすんなよ。
そんかわり、宿題の答え教えろよ。」
「それ、反則だよ。」
「クラブ活動の後は宿題、やる気しねえんだよ。」
「もう、そんな事言わない!
けど、宿題は翔太がちゃんとするように付き合ってあげる。」
「よし、それでいい!」
「うん。」
「帰るぜー!」
「お~!」
冷たくて気持ちのいい風が頬をなでた。
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