第7話

「名前、教えろよ?」


「…絵咲乙葉です!」


甲高い声を出して応えた。


「絵咲さん、俺のことは見知らぬ人じゃないよな…毎週、俺のピアノ聴きに来てただろ。」


「え!知っていたんですか?」


「当たり前だろ。

無断で聴くような奴と関わりたくないから、知らないふりをしていただけだ。」


「やだ…恥ずかしい…本当にごめんなさい。」


「まあいいよ…知ってるかもしれないが、俺は聖城琴臣。」


「聖城琴臣さん…」


いま、初めて名前を知った。


その姿は水曜日の音楽室でしか見たことがなかったからだ。


「聖城でいい。

それと、絵咲さん、絵を描くならちゃんとした描くのに適した紙で描いたらどうだ?」

「え…」


「こんなに上手いのに、安物のノートに描いたら、才能が泣くぞ。」


「あ…そうですか?」


「ああ。

俺が言っているんだ。

もっとマシな紙に描け。」


花がらのノートを渡された。


聖城さんの言葉は一見すると、棘があるようだが、物事の核心をついていて私の心に響く。


怯えて鉱石のように冷えて固まった私の心が溶かされているようだ。


描いてもいいんだ


そう言われているように聞こえた。



「ありがとうございます。」


ノートを受け取った。


「毎週水曜日…」


「え?」


聖城さんの目がこちらに向く。


突然のことにビクッとなる。


「ピアノを弾いている。

だから、もっと近くで聴いてもいいし…」


「え、うそ、」


聖城さんの言葉に戸惑う。


「俺のピアノを弾いている姿を描いても構わない。」


「良いんですか!?」


嬉しくて感情が高ぶる。


「お前の絵、好きだし。

色々な絵が見てみたい。」


「聖城さん…。」


なんていい人なの!

私の絵を好きだと言ってくれて、モデルまで引き受けてくれるなんて…。


「そういうことだ。

気が向いたら来い。じゃあな。」


聖城さんは軽く手を振り、音楽室を去っていった。

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