第5話

音楽室に着くと、静かだった。


どうやら、あの人はもう帰ったみたい。


その方が好都合だ。


辺りを見渡す。


ノート、ノート…


ない。


ない。


ないよー‼︎


何で!?


ついさっき忘れたのに…


もしかして、あの人に見られた⁉︎


嫌なトラウマが蘇る…



それは中学時代


私は絵を描くことが好きで、美術部に入っていた。描いた絵は賞を取ったこともある。

そんな私は好きな人を無意識に描いてしまう癖があった。

授業中、いつものようにコッソリと同じクラスの意中の人をノートに描いていた。

そして、そのノートを教室の何処かに落とし、クラスの男の子に拾われ、からかわれた。

好きな人にも見られ、気持ち悪いと罵られ、ノートを目の前でビリビリに破かれて

以来、トラウマになり、美術部を辞め、人前で絵を描くことをやめてしまった。



しかし、手は無意識のうちに、あの人を描いた。

見られてしまったら、生きていけない!

また、あの時と同じ過ちを繰り返してしまう。



何が何でも探し出さないと!


必死で辺りを見渡すが


ない!




冷や汗が止まらない。



「やっと来たな。」


「へ?」


音楽室から、声がした。


まさか…



「探しているのはこのノートか?」


「あっ、それ…!!!!」


今、1番会いたくないその人が、私のノートを手に持ち、立ち尽くしていた。


見覚えのある、花柄のノート。

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