第77話

「充様、顔色が悪いですが…

どうかなさいましたか?」


廊下に立ち尽くしていると、結夏が心配そうに声をかけてきた。


「ぁあ…ちょっとな…」


何もないように取り繕う。


「充様、何かあったのなら言ってください。

私でよければ力になります」


結夏は充の目を見ながら言った。



「有難う…だが、今は1人になりたいんだ」


「そうですか…」


結夏は伏し目がちに言うと、道を開ける。


「今日はもういいから屋敷には来るな」


「え…はい。

畏まりました」


「お疲れ」


充は素っ気なく言うと、結夏の前を通り過ぎようとした…



ガッ!



結夏は充の手を掴む!



「充様…やっぱり今の充様を放っておくことは出来ません」


「な、何のマネだ!?

放せ!」


イラッとした様子で手を振りほどく。


「嫌です」


手をしっかりと握る。


「聞こえなかったのか、放せッ!?」



ぎゅっ…


結夏は充を抱きしめた。



「は…?」


充は呆気に取られる。


「充様…私は充様の世話役です。

なにか充様にあれば助けます。

だから、私を頼って下さい…貴方を1人にはしません」


結夏の声が耳元で囁く。



なんで、この女はそんなにも悲しそうな声で言うのだろうか…?


俺に同情しているのか?




「なんで…そんなに悲しそうな声で言うんだ?」


「それは…充様…貴方が今にも倒れそうなほど傷ついているから…」


「お前に俺の何がわかるんだ?」


「充様の様子を見れば分かります…

とても傷ついたのですね…」


「!!?」



そう、有希子さん…


俺の初恋の相手で俺を捨てた人…



「結夏…」


耐えきれなくなって、結夏を抱きしめ返す。

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