第64話

結夏は真っ直ぐと父様の顔を見つめている。


おいおい、まさか、本当に世話役を辞めて、父様の秘書になる気じゃ…


冗談じゃない!


あいつは人の弱みを握り、脅すようなやつだ!




父様に近づこうなどと…させるか!


それに、あいつは俺の世話役だろう?


俺の目の届く範囲にいないと、何をしでかすか分かったもんじゃない!



「父様、それはやめたー「宝来様、せっかくのお誘いですが、私は充様のお世話役です。一度充様に仕えると決めたので、残念ですが、宝来様のお誘いを受けることはできません。それに、私にはやらなければならないことがありますので、宝来様の秘書は難しいかと…申し訳ございません」」



意志が強く感じられる声で、物怖じせずにハッキリと言い放つ。



「えー…」


何を言っているんだ、あいつ…?


そんなに俺の顔を真っ直ぐ見て…



…なっ、何か企んでいるのか?



「ほーう…ほうほう。

うむ、まぁ、良い!

結夏さん、これからも、充を宜しく頼む」


「はい、承知しました」


父様に礼をしている…



そして、俺の顔を見て、微かに笑った。



敵だよな?



敵なら、どうしてそんな表情を俺に見せるんだ?



あいつの考えが読めない。



「それで、充」



突然、俺の思考を父様の声が遮った。



「はい、何か?」


「結夏さんから聞いたが、あの、財前万里子さんが充を助けたいと書記係を申し出たらしいじゃないか!」


「ええ、確かにそうですが…」


「東京大区銀行頭取の御令嬢…

充、これが何を意味するか分かっておるな?」


「はい、勿論です」


そう、彼女は日本で2番目の巨大メガバンクを率いる頭取の娘。


そんな彼女のひと声で、巨大な金が動く。

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