第38話

「殴ってみたらどうだ?」



眼鏡の奥の漆黒の瞳が怪しく光る。



「なにぃ!!?」



怒りにビキッっと愛苦の血管が盛りあがる。



「糞がぁ…ナメんじゃねぞォォ!」



愛苦の右手が充の顔を狙って振り下ろされる!



ヒュンッと風を切る音が鳴る!



「充様ー!!」


結夏の足が一歩動く!


「キャー!」


愛羅の表情は恐怖に歪む。



スローモーションのように時が過ぎっていったー…











カシャン……




充の眼鏡がコンクリートの地面に落ちた。





一同の動作が止まる。




「…………で、愛苦君の気は済んだかな?」



ニコリと充は笑顔で愛苦を見つめた。




「………っ。」



愛苦の額から一筋の汗が流れる。



(この男、オレが殴ったのに瞬きを一切しなかった…

こいつぁ…怒らせたら…)




愛苦の拳は充のメガネに当たってしまい、メガネを吹き飛ばした。




「充様、メガネを…」



いつの間にかメガネを拾っていた結夏は充に差し出す。



「やれやれ…暴力は嫌いなんだが…」



と言いながら、充は結夏からメガネを受け取り、かけ直す。



「本当に殴ってしまっていたら、君を許さなかったよ」



冷酷な笑みを浮かべて、口の端を吊り上げる。




「あ”あ”…」


体の奥底が警鐘を鳴らす!


絶対に敵に回したらいけない相手だと…


充の表情に愛苦は悟った。



「っち”!

わーたよ、投票してやる!」



「有難う。

愛羅さんは?」



充は愛羅には聖人君子の表情で問いかけた。



「え!?

愛羅は…うん…投票する…充く…ん…」



もじもじと愛羅は挙動がおかしくなっている。



「おい、愛羅、どうしたんだあ”?」


「愛苦ー、充くんの眼鏡かけてない顔があんなに綺麗だなんて聞いてないよー!」



キャーッと叫ぶ。


まるでアイドルのコンサートに来た時みたいな声色だ。

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