第31話

カッカッカッとチョークが小刻みに音を鳴らす。


その姿をうっとりと見つめる視線が…


そして、男は詩を詠むように…



「美しい…荒廃の世に気まぐれで現れた、空を舞う天女のような後ろ姿だ…ふふっ」


中木は朗読した。



「はぁ…こんな男だったか?」



冷ややかな視線を送る。



中木は人選ミスかもしれない…

女の色香に惑わされ…だらしない顔でゲスな詩を詠むとは…



「俺は騙されないぞ…」



敵意に満ちた目で睨みつけた。



「あら…充様、そんなに熱い視線で見つめられると照れてしまいます」



結夏は頬を赤く染める。



「はぁッ⁈いやいや、違う!

何故そうなるんだ!?」



充は椅子から立ち上がる。



ガタン!



椅子が倒れた。




「充様!椅子が!」


春樹が慌てて椅子を直した。



「あら、違いましたか?」


「変な言いがかりはやめてくれ!」


心臓がドキドキと五月蝿い。



俺の心臓よ、止まれ!



「ふっ…そうですか?

私の勘違い…だったようですね」


結夏はニコリと笑った。



「ふぅ…」


再び椅子に座る。


「充様…あの女性…」


「ぁあ、頭のおかしい世話役だ。

春樹、油断するなよ」


「かしこまりました…」



春樹は結夏を訝しげに見つめた。




敵か味方か判断しかねる…



春樹の心の中は戸惑いと疑念で渦巻いていた。

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