第21話

リビングに戻ると、集まった人たちはソファに座っており、祖母の広子に厳しい目をされたので、慌てて紗奈も着席した。


「翠蓮社長、この子は私の孫の紗奈でございます。

さぁ、紗奈、ご挨拶なさって」


広子の鋭い視線が紗奈を射抜く。

この、地獄の状況下でも広子おばあちゃんは容赦がない。



「はっ、はい!

日菜乃紗奈です。

宜しくお願いします!」


「はい、宜しくお願いしますね」


翠蓮社長はにこやかに笑う。


「紗奈、翠蓮社長は大手芸能事務所【HIGH POWER社】の社長で、今をときめくアイドルグループ【SPIRE】を手がけた方なのよ」


おほほ〜っと広子おばあちゃんは笑う。


「へっへぇ…そうですか…」


テンション激落ちな調子で言うと、祖母は紗奈の背中を思いっきり叩く。


「あっ、ぇえー!

すっ、すっご〜い!」


紗奈は演技も甚だしく大袈裟に手を叩く。

翠蓮社長は上機嫌になっていた。


「まぁ、褒めることでもありませんわぁ!

紗奈さん、うちの子達を紹介しますわねぇ!さぁ、みんな、紗奈さんにご挨拶なさって?」


翠蓮社長がそう言うと【SPIRE】のメンバー達は立ち上がる。


「はーい、御影綾人。

アイドル名はアヤトだよ♪

【SPIRE】のリーダーやってまーす!」


クリクリの目で紗奈を見つめる。

まるで、お人形のような可愛さだ。


「次は俺だな!

蒼真蓮之介、アイドル名はレンノスケ。

よろしくな、リキトさんの彼女さん」


ニヤリとレンノスケは一重の目を細めて笑う。

また、勘違いされていると紗奈は思ったが、訂正はしなかった。


「じゃあ、次は俺かな?

黒沢勇士、アイドル名はユーシ

メンバーの中では真面目担当です。」


正統派イケメンのお手本のような顔だ。

しかし、実際はサイコパスだった。


「次は僕か…

山田貴估、アイドル名はキキ。

最年少だよ。」


キキは18歳で一番若いがどこで身につけたのか、色気があり、セクシー担当を任されていた。


「最後は俺、倉元スカイです。

アイドル名はスカイ、どうぞ宜しくお願いします」


にこやかに笑う。

他人に見せる笑顔だ。

スカイの中で、私とのことは完璧に無かったことになっているらしい。

こんなに、寂しくて、切ないことなんてない。

籠城に建っていた私とスカイの思い出が脆くも無惨に崩れ去った。


「…ご丁寧にありがとうございます。

日菜乃紗奈と申します。」


紗奈は気丈に振る舞う。


「で、翠蓮社長、俺達をこんなところに連れて来て、一体何事ですか?」


リーダーであるアヤトが言った。


「はい、そうそう、【SPIRE】はデビューしてまもないけれど、人気急上昇中でしょう。

それで、貴方達を守る為に、日菜乃さんのお屋敷で、共同生活をしてもらうわぁ」


うふふと艶々の唇を輝かせながら言う。


「はっ?こっ此処に!!?」


紗奈は声を荒げる。


【SPIRE】のメンバー達は紗奈を見つめる。


「ええ、【SPIRE】のスキャンダルを狙うパパラッチが居るから、どうしたらいいか広子さんに相談してみたら、空き家があるからどうだと言われて、写真を見たら一目で気に入ったのよ?」


「ぇえ…」


紗奈は困惑する。



「社長、ここで共同生活なんて、プライバシーはないんじゃないですか?」


ユーシは翠蓮社長に質問する。


「安心なさい。

このお屋敷は部屋が広くて旧皇族の方も使っていたことがあるから、プライバシーも守られるわよ」


「しかし…」


ユーシは引き下がらない。


「うふふ…スカイは大賛成してくれたわよ、ねっ?」


翠蓮社長はスカイにウィンクする。

それを、スカイは和やかに受け止めた。


「ぇえ、翠蓮社長の提案は今の俺たちにとって、最善の策だと思いました。」


「スッ、スカイが賛成したなら…仕方ないですね」


ユーシは納得した。


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