第18話

グラサンを少しズラしてニッコリと微笑む男と、髪をかき上げながら不敵に笑う男が立っていた。

2人ともスタイルが良く、キラキラとしたオーラに包まれていた。



「こんな所でリキトさんに会うなんて嬉しいなぁ~」

「ああ、お前らこそ、こんなとこで会うなんてな…」

「リキトさんは何してるんですか?

まさか、明日の歌番があるのに練習もせずに、浮かれて、こそこそ彼女と食事中ですか?」

「いきなりそんな事を言うのは彼女に対して失礼だろ?」


リキトは否定もかねてか、少し不機嫌そうに言う。


「…確かに。

配慮が足りませんでしたね。

ごめんなさい」


あっさりと謝罪した。


「リキトさん、誰ですか?」


紗奈は囁くような声で聞く。


「あれ、俺達のこと知らないんですか?」

「今、一番キテるのに?」

「……すみません、今までNYに居たので日本の芸能人事情に疎いんです…」

「それなら仕方ないかぁ…

俺達は【SPIRE】のアヤトと…」

「レンノスケです」


2人は輝く歯を覗かせながら、爽やかに笑う。


「どうも…」


紗奈は控えめに挨拶した。


「あれ、あまり刺さってないかなぁ?」

「わり、こいつ、【Rush】以外興味ないから」

「あー、そういうことですか…

まあいいやぁ。

お邪魔しちゃいましたが、リキトさん、明日の生歌番、ラストは【SPIRE】が頂きますからねぇ」


可愛いお人形さんのような大きな瞳がウインクする。


「言ってろ…【Rush】はどんな順番でも全力で歌うだけだからな」

「フフ…その余裕も何時もで持つかなぁ?」

「【Rush】堕ちたり…なんて、ダサい姿は見せないでくださいよ」


レンノスケもクスッと笑う。


そして、アヤトとレンノスケは去っていった。


「な、なにあれ!!?」


紗奈はふくれっ面だ。


「最近デビューしたグループで、なぜか【Rush】を敵対してんだよ」

「え?

最近デビューしたのに?」

「まあ、【Rush】はいつもどおり歌うだけだ」

「明日…生歌番があるのに私と会ってくれたんですか?」

「…お前は気にすんな。

あいつらが勝手に言っただけだから。

それに、リハーサルは済んでるからな」

「…ありがとうございます」


(やっぱり、忙しいのに無理して私のために時間を作ってくれたんだ…)


紗奈はリキトの配慮に益々申し訳なくなった。


「紗奈、シュンとすんな。

俺がお前に会いたかったんだ。

この時間を楽しもうぜ?」


リキトは笑う。

やっぱり、リキトは優しくて最高のアイドルだ!


紗奈は後悔しないように肉を沢山食べる。

リキトは満足そうにその様子を見ていた。




焼き肉をごちそうになり、リキトと別れた。



次の日、生歌番を見るためにTVをつけた。


ペンライトとうちわを手に持つ。

【Rush】の応援スタイルだ。


昨日のムカつく2人を思い出しながら、応援にも気合が入る。


【Rush】は終盤らへんで歌う。


ラストではなさそうだ。


「キャー、カッコいい!

昨日会ったのに、画面で見るリキトも格別!

パワーもらえる!」


ノリノリで体を動かす。


そして、【Rush】の出番が終わり、画面が真っ暗になる。


「…?」


「Hue~…」


画面から音が聞こえる。


「ドンドンドンっ!!!!」


花火が次々と上がり出す。

紗奈は思わず画面に目を奪われる。


「綺麗…」


「バンッ!!!」


ライトは一気にステージを照らす。


「派手な演出だな…」


そのまま曲が始まる。


「あ!!

昨日のムカつく2人?」


画面を凝らしながら見ると…


「え…………」



(うそ…え?)



カタン…


手からペンライトとうちわが落ちた。






「キャー!!!!!!

スカイー!!!!」



画面から歓声が聞こえる。



(嘘だ嘘だ…なんで…スカイが…アイドルに…)



紗奈から力が抜け、へたり込む。





あんなに好きって言ってくれたのに


なんで私を置いて行ったの?


私に飽きた?


それとも、夢があったの?



あの日の桜が舞う頃に時が戻って…問いかけたけど、返答なんてない。

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