第16話

【Rush】が帰国して、抜け殻のような日々が続いた。


「サナ、大丈夫デスカー?」

「テンチョー!カナシイーデス」

「サナ、カワイソウニー」

「テンチョー!」


プルル…


紗奈のスマホが鳴る。

エプロンのポケットからスマホを取り出す。


「はい、ああ、広子おばあちゃん!

うんうん…え!!?

屋敷の大家兼管理人になれ!?」


紗奈の祖母は続けざまにスマホを通して攻撃する。


「えー…うん、私には出来ないよ…

え?つべこべ言わずに帰ってこい!?

アメリカの渡航費は誰が出してやったかって?

広子おばあちゃん。

だけど…荷が重すぎるよ!

え?私がみっちり叩き込んでやるから安心しろ?」


祖母のドスの効いた声がスマホ口から響く。

店長のボブの顔も引きつっている。


「え、3ヶ月以内に帰ってこいって、広子おばあちゃん!?」

「オー、これは波乱の匂いデスネー」

「ちょ、勝手に切れた!」

「これも神のお導きデース!

サナ、年貢の納めどきデスヨ。

私のカフェはいつでも辞めて大丈夫デスネ」

「ボブ~…テンキュウー!」

「サナ、Fightデース!」


こうして、優しい店長に見送られ、日本に4年ぶりに帰国した。


グッバイアメリカ!




日本ー



東京国際空港…

外に出た。

久しぶりの東京に少しソワソワする。

街は変わっているんだろうか…

きっと、速いスピードで景色が変わっているのだろう…早く慣れなければいけない。


キキっー


紗奈の目の前にベンツが停まった。

そして、窓が開き、手招きする。

乗れとの合図らしい。

大人しく車に乗る。


そして、車は都市高速を走るー



「広子おばあちゃん…お久しぶりです」

「ええ…よく帰って来たわ」

「はい…あの、屋敷の…」

「スマホを出しなさい」

「え?」

「同じことは言わせないで頂戴?

スマホを出しなさい」

「は、はい…」


祖母にスマホを渡すと、そのままバーキンのバックにしまい込んだ。


「半年間、あなたをみっちりとあの屋敷を管理出来る人として教育しますから…

それまで、外部環境に触れることはなりません。

いいですか?」

「テレビもネットもだめなの?」

「当たり前です。

外部環境は余計な情報で溢れていますから、あなたの教育に支障が出ます」

「広子おばあちゃん、せめて、【Rush】の音楽だけは聴かせて!

じゃないと、私…

この話はなかったことにさせてもらう!」

「…仕方ないわね…

音楽だけは認めましょう。

しかし、聴く曲に関しては既に発表しているものに限ります」

「…分かった」

「管理人が見つかってよかったわ」

「…あの屋敷…住んでないのになんで手放さないの?

築年数は古いでしょう?」

「………あの屋敷は…大切な人との思い出がいっぱいなの…」


祖母の瞳は憂いを帯びていた。


「…おじいちゃんとの思い出?」

「そうね…それはどうかしらね…?」

「…そっか…」

「私が知っている人に管理してほしいのよ。

大事な屋敷だから…」

「分かった。

広子おばあちゃん、頑張るね」



そして、半年後ー


屋敷の大家兼管理人という職に就いた。



その事を報告したい人がいた。

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