第15話

紗奈が働くカフェに、いつものようにリキトが来た。


「リキト、Welcome♪」

「なんで今日は中途半端な英語なんだよ?」

「なんとなくです」

「変なやつ」

「そう、私、変なんです」

「まーなー、あんな長い文章の手紙を書くくらいだからな。

マジ、長すぎて引いた」

「え、真面目に読んだんですか!?」

「読んだ」

「え…絶対に読まれないと思っていたので、

いざ、読まれたなんて知ると恥ずかしいですね…」

「じゃあ、渡すなよ」


呆れたようにリキトは笑う。


「今日のご注文は?」

「あー、このカフェで一番高いコーヒーをくれ」

「珍しいですね」

「まあな…今日が最後の注文だから、高いコーヒーでも買って、店の売上に貢献してやるよ」

「え…」


リキトの言葉に紗奈の目が見開く。


「今さっき、レコーディングが終わったんだよ」

「そうなんですか…そっか…」


紗奈の目が伏し目がちになる。

そんな紗奈の様子にリキトは心が痛くなる。

でも、言わなければならなかった。


「今までありがとうな…

お前のおかげでNYのレコーディングが楽しく出来た」

「そう思っていただけたのなら、よかった」

「これ、今までのお礼」


ショーケースの上にCDケースが置かれた。


「これは…?」


紗奈はCDケースに触れる。


「NYのレコーディングで録った曲。

まだ、世にも出てない。

お前が一番初めに聴けるんだ、ありがたいだろ?」

「…え!いいんですか!?」

「ああ、俺のサインとメンバーのサイン入り。

世界に一つだけのCDだからな」

「あ、ありがとうございます。

一生の宝ものにします!」


紗奈は嬉しくて泣きそうだった。


「本当に好きなんだな…」

「はい、【Rush】が大好きです!」

「…お前が傷つかないように…自慢できるように…

…お前と付き合っていたやつに【Rush】はアイドルを越えて異次元の存在になるって教えてやっからな!」

「!!」


リキトの言葉に紗奈はどれほど救われたか…


「じゃあな…

日本で会うことがあれば、高級焼肉くらい奢ってやるぜ?」

「はは、ありがとうございます。

けど、遠慮しておきます」

「スキャンダルが怖いのかよ?」

「はい」

「そんときは、俺がお前を守ってやるよ」

「…っ!」


一切の曇のない晴れやかな笑顔で言われた。



「…リキト…私は…」


紗奈は小さな声で言うが、リキトに聞こえていなかったのか後ろを向く。


「またな、日菜乃紗奈」



リキトはカフェを出た。


何も言えずに、紗奈はリキトが出て行ったドアをしばらく見つめていた。





【Rush】がNYのレコーディングを終え、帰国したのはその1週間後だった。


その曲は大切な人たちに向けて歌った曲。

オリコン半年間1位をとった事によって、伝説の曲になった。

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