再会

第12話

4年後ー


アメリカNY

レコーディングスタジオ.



レコーディングスタジオが入っているビルの前を男がそわそわした様子で立っていた。


「まだか…早くしないとマークさんの機嫌が…」

「はょー」

「あっ、リキト、早く来なさい!マークさんがお待ちかねだ!」


マネージャーの湯堂に言われた。


「りょーかい」


少し気怠そうに、ビルに入ろうとした瞬間


「リキト!」


周囲に明るい声が響く。


「っ!」


リキトは突然の来訪者に目を丸くする。

来訪者は駆け足でリキトに近づいて行く。


「ちょっと、また君か!」


マネージャーの湯堂はリキトを護るように来訪者の接近を阻止する。


「リキト、これ…」


マネージャーに阻まれながらも、リキトに見えるように手に持っているものを見せる。

リキトは来訪者の手に持っているのに注目する。


「あっ、行列が出来る店のドーナツじゃん」


リキトは目を輝かせ、ヒョイッと受け取る。

マネージャーの湯堂は呆れたようにため息を吐いた。


「いつもありがとうな」

「うん、全然いいんです。

あっ、レコーディング、頑張ってください。

新曲が出たら、すぐ聴きますから!」

「おー、脳天にブッ刺さる曲を作るから、楽しみに待っとけ」


リキトはウィンクをすると、ご機嫌でビルの中に入っていた。

マネージャーの湯堂もその後を追った。


「リキト、何度言ったらわかるんだ?

あまり、そういう物は受け取るもんじゃない」

「はぁ?

俺の可愛いファンの子がせっかく持ってきてくれたんだ。

受け取らないわけにはいかねーだろ?」

「そうだが、何が入っているか分からないだろう」

「そういって、あいつから何回も差し入れもらってるだろ?

だから、あいつは大丈夫だろ」

「だが、しかし…」

「それに、いい奴っぽいし」

「はぁ…まぁ、この話はまた改めてしよう」 

「はいはい」


レコーディングスタジオに入ると、【Rush】のメンバーは各々と自由に過ごしていた。

空いている席に座ると、リキトは貰ったドーナツの袋を漁る。


「今日もあったか…」


リキトが取り出したのは可愛い封筒に入った手紙だった。


「えーっと」


手紙を開けて、1人で黙々と読む。


「ぷっ、オーダーを間違えて、アメリカ人の店長にコノヤローって日本語で怒られたって…誰もお前の日常なんて聞いてねーよ」


1人、リキトはニヤニヤしながら、ご機嫌な様子で手紙を読んでいた。

そんな様子に、他のメンバー達がリキトのところに集まってきた。


「リキト、何がそんなに嬉しいの?」


バンビはニヤリと不適な笑みでいう。


「はぁ?別に嬉しくないぜ?」

「顔がニヤけてるよ?」

「ほっとけよ」

「その封筒、また例の子やな?」

「あー、そうだな」

「リキト、意外と古風な手紙も好きなんだね…」


Xとライトは言う。


「うるせー、ほっとけ、俺の楽しみなんだよ」

「おっと、天下のアイドルの彼女のハスナちゃんはどうしたの?

ちゃんと、連絡取り合ってるか?」


後藤マッシュはリキトの肩をポンと叩く。


「あー、知らね。

LINeしても、全然返信来ねーし」

「やっぱり、遠距離になると連絡も減るのか?」

「あっ、速報…」


ライトがスマホを見る。


「アイドルグループ、【ハピネス】のハスナ、人気俳優と熱愛か!…っだって」


周りがシーンっとなる。


「まっ、アイドル同士の恋愛なんてこんなもんだろ…」


リキトは興味がなさそうに腕を伸ばした。


「確かに、取っ替え引っ替えだね…

だから、同業者とは恋愛したくないんだよ」


バンビは顔を引き攣らせながら言った。


「女優がええな~」

「いや、俺はアナウンサーがいいと思う」


Xと後藤マッシュが言う。


「君たち、いつまで話しているのかな?

ささっと準備しなさい!」


パンパンと手を叩きながらマネージャーの湯堂が言った。


【Rush】のメンバーはレコーディングに入った。



【Rush】がレコーディングをしている中、カフェで働いている日本人の女がいた。

そう、紗奈である。

あんなに苦手だった英語は日常会話程度なら喋られるようになっていた。

片耳にイヤホンを挿しながら笑顔で受け答えしている。今日も【Rush】の曲を聴きながら、意欲的に働いている。


私は4年前、スカイに振られてから、逃げるように日本を離れた。

そして、アメリカを放浪して、NYにたどり着いた。

右も左もわからなかった私に、今の店長が声を掛けてくれて、カフェで働かせてもらっている。


そして、3ヶ月前から【Rush】がNYでレコーディングをするという情報が入った。

そのレコーディングスタジオが紗奈の働いているカフェに近く、紗奈は思い切って出待ちしたのが始まりだった。

今では、あの憧れの人、リキトと喋れるまでになった。





「よっ」

「リキト!」

「ちょっと、休憩がてら、コーヒー買いに来た」

「はい、いつものカフェラテでいいですか?」

「クリーム多めで頼むな」

「はい、かしこまりました」


紗奈はニコニコしながら作る。

その様子をリキトはじっと観察していた。

周りに日本人がいないのが寂しいのか、日本人がいるカフェに会話をしに遊びに来るのであった。


「おまえさ、笑ってるけど、こんな所で働いてて寂しくないのか?」

「え?」

「周りに日本人も居なくて、友達もいないんだろ?」

「寂しくないですよ…

だって、【Rush】の歌が私の生きるエネルギーですから!」

「うわ、ファンの鏡だな」

「当たり前です!ずっと【Rush】のリキトを応援してきたんですから!」

「…お前さ、付き合ってるやつはいねーの?」

「いませんけど…」

「さみしいやつ」

「余計なお世話です!」


ちょっと拗ねた様子で言う。

それが小動物みたいで、リキトの顔は少し綻ぶ。


「あのさ、今付き合ってるやつがいねーなら、付き合ってみねー?」

「…は?」

「さっき振られた。だから、今、フリー」

「ええ?」


さらりと言われた。


「ー……」


紗奈は無言になる。


そしてー

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