第10話

いつものように学校に着くと、スカイと別れた。


(朝は上手く誤魔化せたよね?

もう、【Rush】の話題が出ませんように!)


紗奈は祈る気持ちでいた。

教室のスライドドアの前で突っ立ていると、


「紗奈、【Rush】のライブどうやったんー?」


友達の五十嵐舞香が声をかけてきた。


「舞香、ちょっと!」

「はーいー???」


2人は教室からベランダに出た。

そして、紗奈は小さな声で舞香に言う。


「実は…私が【Rush】のファンだって知らないはずなのに、

なぜかスカイが【Rush】のライブに来てたの!」

「はあ?

え?どゆことー?」

「だから、なぜか、私が【Rush】のリキトのファンだってバレてるの!」

「えええー?

別にいいんじゃないー?」

「それが、ライブでこんな事があって…」


舞香にライブ会場で起きた事と朝、起きたことを洗いざらい話す。


「待って、スカイ君の目的が分かんない。

でも、紗奈のこと、ちゃんと好きって言ってるんよね?」

「うん…」

「うっわ…ごめん、分かんないからお手上げ!

ま、まあ、ラブラブなんだよね?それなら、良いやん!」


舞香は笑いながら降参のポーズを取る。


「まいか~…ううっ。」

「紗奈も気にし過ぎ!

スカイ君は良い彼氏やーん☆はい、気にしなーい♪」


そう言って、舞香はくるくると回りながら教室に入っていった。

友人の気の抜けた動作に、紗奈も気にしすぎたのかもしれないと少し安堵する。




昼休み、スカイの教室に行くと、

スカイがクラスの女子に囲まれて楽しげに談笑している光景が目に飛び込んできた。

紗奈は目を疑った。


「やーん、倉元君が興味があったなんて知らなかったー!」

「私、そのグループ知ってるからCD持ってくるね☆」

「このグループも今、人気がきてるよぉ!」

「今度、私達と一緒にライブに行こぅ♪」


(なんなの…?初めて見る…ありえない)


紗奈は不安でたまらなくなる。


「あ、紗奈!」


紗奈の存在に気づいたスカイは爽やかに手を降った。

クラスの女子たちの殺気に満ちた視線が紗奈に注がれる。

それは、楽しい時間を邪魔する存在だと言いたげな雰囲気だった。


「スカイ、屋上に行こうよ」

「うん、行こう」


女子達の輪を離れると、スカイは紗奈の手を握る。


「みんな、また今度、詳しく教えてね」


ウインクをすると、クラスの女子達はから色めき立つ声が上がった。



屋上ー



「ね、ねえ…」

「ん?」

「クラスの女の子と何を話していたの?」

「んー、別に大した話じゃないよ」

「…クラスの女の子と話しているの見たことなかったから、どうしたのかなって…?」


スカイの膝の上に乗りながら、顔はうつむき加減で聞く。

まるで、何もできない子猫のようで、スカイはくすりと笑う。


「そんなに紗奈が不安に思わなくても、怪しことはしていないよ」

「そ、それは、分かってる!

けど…気になるの」

「紗奈が気にするのは珍しいね。

一体、今日はどうしたのかな?」


紗奈をあやすように髪の毛を撫でる。


「わ…私以外の子と…あんなに楽しげに話さないで…」


紗奈はもじもじ恥ずかしそうに言う。


「っ!!?」


紗奈の嫉妬にスカイは面食らった。

スカイはまんまる目から、すっと目を細める。


「紗奈、もしかして嫉妬してる?」

「嫉妬!?

ち、違うっ!嫉妬じゃなくてただ、気になっただけ!」

「ふふ、その慌てようは…

益々、肯定しているようなものだよ」

「意地悪~」

「ごめん、紗奈が可愛くて、意地悪しちゃった。

紗奈を不安にさせるようなことはしないようにするよ」

「う…ん」


スカイの首に自分の腕を回して抱きつく。


「紗奈、安心して、好きなのはずっと紗奈だけだから」

「私もだよ…」

「本当に俺だけ?」

「え…?」


スカイの目が紗奈をじっと見つめる。

一瞬にして時が止まった。


「紗奈は俺だけが好きなの?」

「あ…」


(リキト…)


心が揺れる。


ナゴヤリキトは紗奈にとって生きる力。

歌声、喋る声、顔…見るだけでドキドキして、スカイを犠牲にしても会いに行きたい存在。


「わ…たし…は…」


うるうると瞳が揺れる。


「…紗奈…」


スカイはもうその瞳を見たくなくて、無理やりキスをする。


呼吸が出来ない程に荒々しくて、苦しかった。




ーーー


そして……

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