第9話
その後のことはよく覚えていない。
ふらふらとした足取りで帰宅したら、母親に心配されたけど、そのままベットに倒れ込んでしまった。
スカイはあの場所で確実に私の存在を認識していた。
断った紗奈へのスカイなりの当てつけなのか、それにしては余りにも度が過ぎていた。
(そもそも、なんで【Rush】のリキトのファンだってバレているの!?
スカイに嫉妬させないように、完璧に隠していたはずなのに…)
頭を抱えこむ。
どんな顔をして会えばいいのか分からない。
何よりも、あんなことをしたスカイの行動が紗奈にとっては意味不明だった。
「明日、学校でどんな顔をして会えばいいの…」
それに、スカイの誘いを嘘を言って断った。
「…」
誤魔化すしかない…
あの場に私は居なかった。
そう、じゃないと、辻褄が合わない。
翌日の朝ー
カサッ…
布団が擦れる音がする。
「…っん?」
紗奈は微かな音で目が覚める。
「紗奈、おはよう」
スカイのドアップな顔が目一杯に飛び込んできた。
「スス、スカイ!?
なんで、ち、近いっ?」
「…紗奈の寝顔、可愛いね」
「なっ!!
もう、からかわないでよ!」
恥ずかしさから、顔を真っ赤にして、枕でスカイの顔を遠ざけようとした。
その行動がいちいち、スカイの心臓をキュンキュンさせているとは紗奈は知らなかった。
「てか、なんで、スカイが居るのー!?
まだ、寝てたのにぃ!」
「紗奈のママに起こしてきてって頼まれたから、上がったんだよ」
「もー、ママ、スカイに何でも頼むんだからぁ!」
「ふふ、紗奈の準備がいつも遅いからね」
「むー…」
「紗奈、昨日は家族と良い時間が過ごせた?」
「え?
…ーあー、うん、とても、楽しい時間…だったよ…う…ん」
紗奈は言葉に詰まりながらも、片言の日本語でなんとか声を発する。
「そっか、よかったね」
スカイは爽やかな笑みをしながら、紗奈の髪の毛に触れた。
(あ…スカイの笑顔…リキトに似てる…)
優しく触れる手に、紗奈はドキドキと心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
「俺も昨日はとても充実した時間を過ごすことが出来たんだ」
「へ、へぇー…、な、なにかあったの?」
すっとぼけたふりをして、スカイに聞く。
「…紗奈は【Rush】って知ってるかな?」
「【Rush】?
あー、聞いたことあるような無いようなー?
なんのグループだったかな?」
紗奈の視線は天井を向いていた。
スカイは目を細める。
「今人気のボーイズグループだよ。
その【Rush】のライブに行ってきたんだ」
「へ、へー、スカイはそのグループのことが好きなの?」
紗奈はドキドキしながら聞く。
「…そうだね…
大っきらいだよ!」
スカイはにこやかに笑った。
目が笑っていなくて、紗奈は初めて見るスカイの表情に驚愕する。
「特に、リキトって人は嫌いかな」
「へ、へ、へー!」
「大切な子の心を奪い去っているから、尚更苛つく」
「ええー?
そうなんだー」
(それって、私のこと?????)
紗奈の表情が強張る。
「幸運にも、ステージに上げてもらったんだけどさ…
紗奈、メンバーになんて言われたと思う?」
「え!な、何かな??」
「俺が嫌いなリキトって人に似てるって言われたんだ」
「ええ!?スカイが?
偶然じゃない?」
「でさ、とあるメンバーの人にね、こうやって顎先を触られて…」
スカイの指が紗奈の顎に触れる。
突然のことに、紗奈の体がビクッと反応する。
クイッと顎先を上げられ、
「俺の目をじっと見つめてきて…」
「…ぁ…」
熱っぽいスカイの視線が紗奈の視線と絡む。
そして、そのままゆっくりと顔を近づけてくる。
普段のスカイからは想像できないような色気に紗奈の頬が蒸気する。
「そのまま唇が触れそうな距離で…」
スカイは視線を紗奈の唇に落とす。
「こうやって…」
そこから言葉がなくなり、スカイの唇が優しく紗奈の唇に触れた。
そして、包み込むような感じで紗奈の唇を噛んだ。
キスのようでキスじゃない。
不思議な感覚に紗奈はわざとスカイに焦らされているとは分からなかった。
紗奈の意識がボーッとしていたのを邪魔するかのように、スカイは突然、紗奈の両頬の肉を手で掴んだ。
「…で、こんなことをされましたとさ!」
ムギュッと音がなりそうなくらいに動かされる。
「むー!すーかーいー!」
「あはは!紗奈の顔、変だね」
「むにゅ、す、が掴むからぁ!」
「ほんっとに、可愛いな」
今度は思いっきり抱き締められた。
「スカイー、苦しいー!」
「あはは!
実はね、リキトさんに抱きしめられたんだ」
「へ?そ、そうなんだ…」
「この事を自慢したら良いよって言っててさ…」
抱きしめる力がより一層強くなる。
「あー、なんか、悔しいなー」
「スカイ…
スカイは…スカイだから。
…スカイ、好きだよ」
「…うん、ありがとう」
ちゅっとおでこにキスをされた。
「紗奈、早く準備しなよ。
俺、下で待ってるから」
スカイはベットから離れた。
「うん、急いで準備するね」
スカイはその言葉を聞くと、微かに笑って、部屋を出ていった。
このときから、彼の中で何かが動き出していたのかもしれない。
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