第7話
もうすぐ、【Rush】のコンサートが始まるから、浮足立っていた。
毎日がリキトに支配されていく。
ネットで【Rush】の動画をチェックして、【Rush】の歌を聴いて、応援の練習もする。
そして、ペンライトの振り方もチェックする。
毎夜、徹夜気味だった。
「…な…」
「…っぇ⁈」
「紗奈‼︎」
昼休み、誰もいない屋上で、ひときわ響く大きな声で名前を呼ばれたので、閉じかけていた瞳が思いっきり開く。
「紗奈、話聞いてた?」
「はっ、えっ、と…ごめん、なんだっけ?」
「紗奈、眠そうだね、大丈夫?」
「え!?」
ライブために、スカイに内緒で推しのうちわを作ったりしていて、毎夜、寝不足気味だなんて言えなかった。
「うとうとしてる」
「ごめん、なんでかな…
少し眠いかも…」
「無理はいけないよ。
俺が支えてるから少し寝なよ。
おいで」
そう言って、スカイは膝をぽんぽんと叩いた。
逆、膝枕をしてくれるようだった。
「スカイ、ありがとう。
お邪魔します…」
初めて、スカイに膝枕をしてもらう。
少し筋肉質で硬い太ももに頭を乗せる。
そのまま上を見ると、スカイと目線が合う。
スカイは穏やかな瞳で紗奈を見つめた。
「…スカイ…の…瞳はきれいだね…」
「…紗奈?」
「ーーーーー…っ」
スカイは紗奈の名前を呼んだけど、紗奈はそのまま眠りについてしまったようだ。
「紗奈…こんなに好きなのに…
なんで、紗奈の全てを手に入れることが出来ないんだろうね…?」
「……………。」
紗奈の髪に触れながら、スカイは空に視線を移す。
「【Rush】…か…」
ふっとスカイは笑みを零した。
ーあれはきっかけに過ぎなかったのかもしれない。
忘れられない出来事が起こってしまう。
私はそうとも知らずに、【Rush】のライブ当日を迎える。
この日のために全てを犠牲にして、準備を進めてきた!!
持ち物を確認して、ライブ会場にボッチ参戦!!
まずは、秘密のアカウントにライブ会場と推しのうちわと一緒に撮ったのを即載せた。
直ぐに、イイネがついた。
テンションが上がる。
「イイネしてくれた人もライブ来てるのかなー?
さ、入場しよ!!」
人混みの中を並んで、会場の中に入る。
席順はメインステージから真ん中辺りの席だった。
可もなく不可もなく、周りに人がいるので、ファンサービスを貰えるか微妙な位置であった。
でも、アリーナの席になったことで、リキトをより近くで感じられる。
ペンライトとうちわを持っていると、イントロが流れてきた。
周りの人がザワザワとし始める。
そして、激しい轟音とともに、特攻(爆発音)の演出の後に5人のメンバーが一斉に登場した。
「キャー、リキトー」
アップテンポの激しい曲調に合わせて、5人は激しいダンスを踊る。
その間も、リキトはクールな表情でラップを刻む。
「キャー、リキトの生ラップー!」
思わず持っていたペンライトを高速で振ってしまうくらいに興奮していた。
(低音ボイスがセクシーでやばい、破壊力が凄いよー)
こうして、8曲目が終わったときに、MCが入った。
「みんなにやっと会えたね!」
バンビが明るい声で言うと、黄色い声援が響いた。
「ほんまに楽しみにしとったわー」
「そうだね。
初アリーナだもんね」
「昨日は興奮して寝られなかったし!」
メンバーたちは笑いながらもリラックスした様子で喋る。
「みんな、顔をよく見せてよ♪」
後藤マッシュが嬉しそうな様子で言うと、観客は続々と顔を上げて、キラキラした瞳でステージを見つめる。
「うわ、美人が多すぎ!」
ナゴヤリキトはおちゃらけた様子で言う。
「美人も多いけど~…わっ!
男性もちらほらいるね!
嬉しいねー」
メンバーは観客を眺めるが、バンビが突然、最前列を指差す。
「…え、ちょ、彼…」
「は?バンビ、どないしたん?」
「え…マジ似てない?」
「あー、似てるかもなー」
「気のせいやろ」
「似てるって、な、リキト?」
「は?マジやん!俺がいる?」
メンバーたちは内輪で盛り上がっている。
観客は何事かと話し出し、ザワザワしだす。
(なになに?)
紗奈も最前列の方に視線を合わせる。
「そこの彼、ステージに上がってきなよ」
バンビが言うと、1人の男性がステージ上に上がってきた。
観客はその男を見た瞬間、悲鳴を上げる。
「えっ!!?」
紗奈は目を見開く。
(なななな、なんでっ!!!!?)
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