第6話

2年生になった私達は、スカイの睨みもあってか、校内ではすっかり公認のカップルとなっていた。


朝は毎日スカイが迎えに来てくれる。


コソコソする必要なんてない。


毎日が楽しくて楽しくてー



「君と2人で過ごしたあの屋上に

今は1人君を思いながら立っているよ~♪」


朝から【Rush】の歌を流しながら鼻歌を歌いながら支度をする。


「紗奈、スカイ君が来たわよー」


1階から母親の呼ぶ声で慌てだす。


「えー、もう!?」


急いで支度をするけど、全然進まない。

なぜ、昨日の夜の内に教科書の準備をしなかったのか悔やむ。


「紗奈、まだ?」


「キャ!

す、スカイ‼️」


母親が上げたのだろうか、スカイは紗奈の部屋のドアを開けて、覗き込む。


「ああ!?」


しまった!!

男性アイドル【Rush】にハマっているなんて知られたら終わる‼︎


素早く、音楽の再生ボタンを停止する。

すると、部屋は静まり返った。


「…紗奈?」


「っす、スカイ、おはよう!」


「おはよう…

今、なにか音楽をかけていなかった?」


「え?」


「なんとなく…

アイドルっぽい曲が聴こえたような…」


「ええっ!!!?

な、なんのこと??」


「俺に隠し事してない?」


「隠し事…ってなにかな?」


「……まあいいや…紗奈、早く行かないと遅刻するかもよ」


「ごめんね、スカイ。

ちょっと、髪の毛整えてくるー」


慌ただしく、スカイを残して自分の部屋を出ていった。



スカイは無表情で紗奈の音楽再生機に手をかける。

そして、手慣れた様子で操作をする。



「【Rush】の…イノセント?」


文字を忘れないように目に焼き付ける。



「スカイー、おまたせ~」


「っ!」


「どうしたの?」


「なんでもないよ、行こうか」


「うん」


スカイと毎朝、登校して、昼休みは屋上で2人きりの時間を過ごす。


お弁当を作っていくと、スカイはとても喜んでくれた。


お礼に、スカイに後ろから抱き着かれて、そのまま2人でお昼寝をするのが日課だったりもしたな…


懐かしいな…

思い出は鮮明に色褪せない。








2年の春、【Rush】の夏の全国アリーナツアーが決まった。

デビューして2年目のことだった。


癖が強い男性アイドルとしては順調に人気と売上を上げているグループだった。

中でも、ナゴヤリキトと後藤マッシュの人気が爆発的に高かった。



「絶対にライブに行くから‼︎」


部屋でペンライトとリキトのうちわを持ち、準備万端だった。

スカイという彼氏がいながらも、推し活をする姿は決してみられてはならない。


「ライブ楽しみ~」


リキトのうちわを眺めながら誰もいない部屋でニコニコ笑う。


「リキト…スカイ…こう見ると似てる?」


リキトのうちわは笑顔だった。

笑った顔がやっぱり似ている。

だけど、リキトは神様みたいだから、誰に似てるとかないし。唯一無二‼︎絶対無二‼︎





とある日ー


「紗奈、ちょっといい?」


「あ、うん」


珍しく廊下で呼び止められた。


「再来週の日曜日、紗奈と行きたい場所があるんだけど、空いてる?」


「再来週…!!!!?」


再来週の日曜日は【Rush】のアリーナツアーに行くことが決定していた。

なんで、よりにもよって、再来週の日曜日なのぉ!!?



「あ、ごめん…その日は予定が…」


「え?」


「か、家族と予定があるの!」


「あー…そっか…

それなら仕方がないね…」


スカイは少し悲しそうにしていた。


ごめんなさい、まさか、アイドルのコンサートに行くなんて言えない!!

これは、秘密なの!!


「紗奈のために考えたデートスポットだったんだけどね…」


「スカイ…ごめんね、必ず埋め合わせはするから」


「いいんだよ、楽しんできてね」


スカイは無理に笑っているのが外野からでも分かった。




多少の犠牲を払ってでも、リキトに会うために、私はスカイに嘘を付きました。


正直と欲を天秤にかけ、欲を取ってしまった。

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