第5話

私が呼び出されたわけじゃないのに体が勝手に動いていた。



田中さんが呼び出された場所はベタな体育館裏。



「ぁ…ここが人目につかないのかな?」


こっそりと辺りの様子を伺いながら歩くと、先輩たち5人と田中さんが居た。


先輩たちは田中さんを取り囲んでいる。

やがて、言い争いに発展し、田中さんの体を手で押しているようだった。


「だから、違うって言ってるじゃないですか!」


「じゃぁ、なんでこの前、倉元君と話してたんだよ⁈」


ボスっぽい女の子が腕を組みながら田中さんに近寄る。


「あっ、あれは、倉元君に渡してくれって先生に頼まれたんです‼︎」


「そう言って、密会してたんじゃないのー!?」


化粧の濃ゆい背の小さな女の子が言う。


「密会とか意味がわかりません!!」


田中さんは必死に反論するが、先輩たちは全く納得していない。



「ー…っ」


私がスカイの彼女って言ったら、田中さんは開放されるよね?

言いたいけど、スカイとの約束で、付き合っているのは秘密にしておこうとなっていた。

歯がゆい思いをする。


でも、


このままでは、いけないような気がする…


意を決して動く。


そして、先輩たちの後ろに立つ。


「……あの!!」


「何っ!?」


先輩たちの視線が一斉にこちらに向いた。

般若のような顔でこちらを見てくるので、冷や汗が垂れる。


「あんた…何?」


ボスっぽい女の子が紗奈を仁王立ちで、迎える。


「あー…の…」


言葉に詰まっていると、ボスっぽい女がイライラした様子で貧乏ゆすりをする。


「あ???

なに見てんのよ!?

ぶっ飛ばされたいのぉ!!?」


「……田中さん…先生が呼んでたよー…って言いに来たんですが…?」


「ー…っち、おい、田中、もう行けよ‼️」


「え!?

開放してくれるんですか?」


「気が変わんないうちに消えろぉ!」


「は、はい!

日菜乃さん、あ、ありがとう!」


田中さんが消えたことでこの場にいる必要はなくなったけど、どうしても言いたかった。


「…先輩たちって…カッコ悪いですよね…」


「「「「「はあ?」」」」」


紗奈の言葉に先輩たちの表情が固まる。


「1人に対して大人数で責めるなんて…カッコ悪いと思います…

外から見ててそう思いました」


言いたいことを言って立ち去ろうとしたけど、先輩たちの逆林に触れたのか、行く手を阻まれた。


「あんたさ…1年のクセに生意気なんだけどぉ?」


「私たちのこと、侮辱してるよねぇ?」


「そんなつもりはなかったんですが、言葉が出すぎました」


「出過ぎたじゃねーよ、失礼すぎぃ!」


「…でも、本心です」


「へー、素直すぎて、ボコボコにしたいくらーい♪」


怖いくらいの笑みで紗奈を見る目は敵対心を隠しきれずにいた。


「ボコボコにされたら…先生に訴えます」


「はあ?

やっぱりこいつ生意気じゃない?」


「良い子ちゃんぶってんのも気に食わないよねぇ」


「ブスのくせに調子乗ってんなょ!?」


「ブ…スっ??」


一番言われたくない言葉!


「もっとブスにしてあげるー」

「顔を中心に殴ろー」

「賛成ぇ」

「楽しそぉ」


キャキャと盛り上がる。

そうやって、理由をつけてストレス解消をしようとしている。

サイテーな人たち。





「…盛り上がってるところ悪いんですけど、その子になにかしたら許さないですよ」


場の空気を突然と壊すかのように、低音ボイスが響く。


「え?」

「あ!!」

「くら…!!?」

「うそ…」


先輩たちは驚きの声とともに、後ずさる。


身長の高いスカイは先輩たちを見下ろす。

けど、その表情はとても冷たかった。


「くっ、倉元君がなんで…⁈」


「その子を迎えにきたんです」


スカイの言葉に、先輩たちの視線が一箇所に集中する。


「この…ブスを?」


先輩たちは呆気に取られてる。

その隙に、逞しい腕が伸びてきて私の手を掴んだ。


「行こう」


スカイに引き寄せられて、守るように抱きしめられた。


「…ん…」


小さく頷くと、その様子を見たスカイは目を細めた。


「ちょっ、ちょっと待ってよ、倉元くん!

わっ、私達は別に何もしてないよ?」


「でも、俺には何かしようとしてるように見えましたよ?」


「そ、そんなこと、しないわよねぇ?」


ボスっぽい女の子は周りに居た女子たちに同意を得ようと必死に顔で合図する。


「くっ、倉元くんの気のせいよ!」

「私たち、仲良くお話してたよねぇ?」

「可愛い後輩をまさか虐めるなんてしないよょ!」


醜く弁明を始める。


それをスカイは鼻で笑う。


「それならいいんです…

けど、俺の彼女にブスなんて言わないでもらっていいですか?」


「は?」

「かの…じょ?」


「そうです。

もし、俺の彼女を虐めようとしたら…

俺が先輩たちを徹底的に叩きのめしますよ?」


「えっ?

彼女って、そいつが?」


先輩たちは紗奈に向かって指を刺す。


「ええ…

先輩たちに何か関係があるんですか?」


「やっ、別に、なっ…」

「ないなら良かった‼︎

じゃあ、俺たちの事、見守っていてくださいね、先輩たち」


キラリと輝く笑顔で言うと、スカイは紗奈の手を引いていく。

勿論、後ろは振り返らずに…





「ねぇ、スカイ…あの人達に付き合ってること言ってもよかったの?」


「んー…どうだろうね…

でも、あのままだと紗奈が危なかったから、言ってよかったのかも。

まさか、俺の知らない所で関係ない人がああやって、呼び出されてるなんて分からなかったな…」


少し傷ついたような表情をする。

モテる人は周りが放っといてくれないので、本人が知らない所で事件が起きている場合がある。

それを、スカイは今日知ってしまった。



「…探しに来てみて良かったよ」


「スカイは…何時も私を助けてくれるね」


「紗奈?」


紗奈はゆっくりとスカイに抱きつく。

もちろん、顔は恥ずかしくて見せられない。


「スカイに触れると安心するよ。

あたたかいな…」


「…紗奈…」


傷ついた君が可哀想でほっとけない。

なにかしてあげたくて…触れたい…


好きが溢れてくる。












こうして、校内ではスカイの彼女が判明した。

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