第3話
ナゴヤリキト(20歳)
5人グループのスーパーアイドル【Rush】のラップ担当だ。
綺麗な顔からは想像もつかないような低音ボイスと高速ラップで聴く人の心を抉る。
リキトの声を聴くと胸のドキドキが止まらない。
そんな推しに似ている倉元君。
間近で喋るのが初めてだったので、今まで気づかなかったのだ。
「あっ、あの…、はい、宜しくお願いします。」
頭では何も考えられなくなって、即答してしまった。
「うん、日菜乃さん、宜しくね。」
夏の光と重なり、笑顔が余計に眩しく感じた。
私の目が見えなくなりそう!
「日菜乃さん、宜しくの握手をしようよ!」
「えっ、あの、それは恥ずかしい…」
「友達でしょ?」
倉元君はねっ?といった様子で首を傾げる。
その可愛げのある様子はリキトに似ていて、私の心を破壊するほどの威力を持っていた。
なによりも、彼は学年1モテると噂の男なのだ。
「ぁあ、よっ、宜しくお願いします!」
思い切って倉元君の手を握ってしまった。
いきなり過ぎて、倉元くん引いてないかな…?
「うん、紗奈って呼んでいいかな?」
「えっ⁈もっ、もう?」
モテる男は距離の詰めかたが早い。
「何かおかしい?」
不思議そうに見つめられる。
倉元くんは当たり前のことを言っている。私がおかしいのかな?
「ううん、紗奈って呼んで!
私は…「スカイでいいよ!」」
ギュっと手を握られる。
力が強いと思いつつも、私も精一杯の笑顔を返す。
「スカイ…くん?」
「……うん、スカイでいいよ!」
確認するような視線を向けると、少し倉元君の頬が赤い気がしたけど…きっと、夏の暑さにやられただけよね?
「スカイ、これからお世話になります」
ペコリと頭を下げれば、スカイは笑顔でいた。
こうして、私とスカイの関係が始まった。
夏休みに学校の図書館を利用する者なんて誰も居なかったから勉強するには絶好の環境だった。
2人きりの毎日2時間の勉強会だ。
スカイはいつも私の隣りに座って、熱心に教えてくれる。
そして、教え方がとても上手だった。
「ここは〈be動詞〉を使ってー…」
「え…と、こうかな?」
「エクセレント!」
スカイが笑うたびに推しのリキトに見えてくるから、英語が魔法のように解けていく。
これも、リキト愛のおかげかな!?
「紗奈、こんなに飲み込みが早いなんて感心するよ!」
「そ、そうかな…」
「えらいえらい」
少しゴツゴツとした長い手でぽんぽんと頭を撫でられた。
「ひゃっ!?」
軽いタッチだったけど、とてもびっくりしてしまった。
男の子に頭なんて触られたことがないから。
「あ、ごめん、びっくりした?」
「あ、だ、大丈夫!」
「うん…っの前に、ちょっと休暇する?」
「そそ、そうだね!」
あははっと愛想笑いをするけど、内心、心臓がドキドキしすぎてスカイから離れたかった。
一時休戦といった感じ…
そんな私の様子を見てか、スカイは席を立った。
「飲み物買ってくるね」
「う、うん!」
スカイは図書館を出ていった。
その瞬間、緊張の糸が切れて、どっと疲れが出てしまう。
スカイは笑顔を向けてくる度、リキトと勉強をしているような錯覚に陥ってしまう。
でも、彼はリキトとは似ているようで違う。
教えている時の表情は真剣で、綺麗な横顔はリキトとは似ていなかった。
「真剣な表情の時は似てないなー…
でも、やっぱり綺麗な顔だから、モテるんだろうね…
しかも、スカイは優しすぎるよね、私のために時間を割いて教えてくれるんだから。」
彼の印象は優しくて気遣いもできて勉強もできて綺麗な顔をしている。
「ん~っ」
少し伸びをすると、机に突っ伏すと、目を瞑った。
カララ…
ドアが開く
「紗奈…?」
「……」
静かに近づく。
「……」
誰かが覆いかぶさる。
そして、その人はゆっくりと近づき…
そのまま、おでこら辺に
ちゅっとリップ音が響く。
「…!?」
おでこにマシュマロみたいな感触を感じた。
「え!?」
顔を上げると、スカイが笑顔で立っていた。
え?スカイが私のおでこにキスした??
うそ…なんで?
「い、今…おでこにキスした?」
「した。」
「え?なんで?」
「したかったから」
「え?」
「紗奈が可愛かったから」
「かわっ!?」
可愛かったからって、おでこにキスしていいの!?
私達、友達じゃなかった!?
恥ずかしくなって、一気に顔が赤くなる。
「あの…私達、友達だよね?」
「あー…それさ、今日でやめない?」
「え?」
「俺、紗奈と付き合いたい」
「は?」
「だめ?」
「ちょっと、意味がわからなっ、ンンッ!!?」
スカイはそのまま紗奈を抱き寄せて、キスをした。
ガタガタっと椅子が倒れる。
なんで、私はスカイとキスをしているのか意味が分からなかった。
そのまま、スカイに初キスは奪われ、ディープキスな方もついでにされた。
モテる男は手が早かった。
「で、付き合う?」
「…うん…はい…」
やっと開放されて、ヘトヘトの私は二つ返事で了解した。
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