Vol.2/デッド・ソウルズ(8)

 路地裏の角を曲がりしな、三度、あのキナ臭い匂いがした。と、思った刹那、一発の銃声が鈍く響いた。


「!?」


 左胸を撃たれた衝撃で、よろめきそうになるのを踏んばって耐える。しかし、束縛していた手が一瞬ゆるみ、その隙に短髪には逃げられてしまった。


 短髪が駆けていく小路のむこうに、黒いスーツの三十がらみの男が立っていた。


 鋭い眼つきに、ふてぶてしくえらの張った顔をしていた。


 右手には、消音器サイレンサーつきの拳銃が握られていた。


 見るからに、ヤクザだった。


「い、いきなり撃つことないだろ。びっくりしたなぁ、もう」


 銃で撃たれて穴が開いてしまったPiL――パブリック・イメージ・リミテッドのTシャツを見ながら、オレは抗議した。


 気にいっていたのに、またこれだ。貫通したのか、弾は体内には残ってはいなかった。


「ほぉ。舎弟どもがいってたのは本当だったか」


 男が口を開いた。


 撃たれても死なないオレを見ても大して驚いていない様子から察して、今までのヤツらとはいささか格が違うらしい。


「あんたが、そのチンピラがいってた《兄貴》か?」

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