Vol.1/心臓にナイフ(4)

 ――と、いつまでも驚いてばかりもいられないので、ここで自己紹介をしておこう。驚くのは後でもできるし、第一、話が進まない。


 オレは二井原 じんといって、歳は二十七歳。クトゥルフというバンドのギターで、作詞作曲もやっている。


 クトゥルフは、'80年代のバウハウスやシスターズ・オブ・マーシーなどのポジティブ・パンクからゴスの流れに、'90年代のナイン・インチ・ネイルズやミニストリー、PIGなどのインダストリアル・メタル、そして、ゼロ年代のエヴァネッセンスの影響を受けたバンドだ。今のメンツになって二年たらずだが、熱心な子たちがファンについてくれて、ワンマンでもハコを満杯にできるほど集客も上がっていた。実際、大手レコード会社からの誘いもあった。


 が、オレにその気はなかった。


 バンドの他のヤツらは乗り気なようだったが、オレはゴメンだった。


 レコード会社があれこれ干渉してくるような状況を、自らつくるつもりはなかったからだ。つまらぬインディー気質といわれようがしょうがない。メジャーにはどこか信用しきれないところがある。


 しかし、最近はこれが原因で、感情的なわだかまりがバンド内で生じるようになっていた。

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