第72話

声の主が見える位置まで移動する私。



窓側の一番前に座っている、桜葉君だった。



彼は、イケメンだけどクールでほとんど何も話さず、黒髪で物静か。



成績はいつもトップの秀才君である。




「……どういう意味?」




彼と話すのは初めてのことだった。



私はドキドキしながら聞き返す。




「聞いたって誰も答えてはくれない。先生なんか何も知らない」



「じゃあ、桜葉君なら答えてくれる?」



「……俺も何も知らない」




手にしていた本を閉じると、桜葉君はそれをカバンに入れて教室を出ていこうとした。



私の肩に桜葉君の体が触れて、私の手から黒いノートが落ちる。




「……ごめん」



「あ、私こそごめんね!」




桜葉君に謝ると、私は慌ててノートに手を伸ばした。

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