第73話

だけど、私より先に桜葉君がノートを拾い上げる。




「あ、ありがとう……」



「……」




拾ってくれたのかとホッとしながら私は手を出した。



だけど、桜葉君は黒い表紙を見つめたまま停止している。




「桜葉君?」



「これ、お前のノート?」




私が落としたのに、どうしてそういうことを聞くんだろう?



普通はそんな風に思わないはずなのに。




「……私のというか……私のじゃないんだけど……」




持ち主は私ではない。



桜葉君は私の答えを聞くと、迷うことなくノートを開いた。




「えっ?!あ、桜葉君!」



「……これは……」




ノートの中を見ながら、桜葉君の表情がくもっていく。

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