第四話 確かにそこにいた。
ここからどうすればいいのやら。
何にせよ、生きる手立てが無い。
家も無い、お金も無い、友人も家族も何もかも。
あるのは身体と意識だけ。
やることがないってよりは、やれることがないといったところだ。
(本当にどうしよう...)
悩みに悩んでみるが、全く答えは見つからない。
考えこみながら下を向いて歩いていると、そこはさっき通った大きい広場だった。
少しずつ日が落ち始めているからか、人々の動きもいくらか穏やかになっている。
(日が落ちたら本当にまずい…)
日が落ちると何があるか分からない。
何も知らない地で野宿など、危険にも程があるだろう。
とりあえずは今日だけでも凌げるような宿を探さなければ。
辺りを見回してみても商店や民家が多く、宿のようなものは一切見当たらない。
だんだんと焦りを感じ始めてきた。
やばい。やばいぞ。
一回落ち着こう。そうすれば何か見つかるはずだ。
まずお金は…無いな。次に食べ物は…無いな。そして助けてくれそうな人は…ん?んんん?
いるな!?!?
思い当たる人がいる。
(今ならまだ間に合うかも…!)
頭に浮かんだその瞬間、直ぐに足を動かした。
その
今日だけでもかなりの距離を歩いているため、足に強烈な疲労感を感じる。
だが、今は休んでいる暇は無い。
そして着いたそこは…
(情報屋ジーニウス…!)
幸いまだ店は明かりが点いており、営業中のようだ。
そして再び、恐る恐る扉を開ける。
最初に開けた時よりも、少しばかり軽いような気がする。
それは気のせいか。
扉を開けると、さっきと何も変わらない物置のような部屋が目に飛び込んでくる。
ホコリを被った鎧に、錆び付いた刃物。
どれもこれも歴史を感じる一品だ。
まあ、歴史を感じるというか、ただボロボロなだけだと思うけど…。
カウンターには…まあ誰もいないよね。
多分、基本的にカウンターには誰も立っていないのだろう。
そもそも本気で営業しているのかすら怪しいスタンスだし。
とりあえず、店主さんに本題を話そう。
「すみません…誰かいませんk…」
「誰だァ!!人の眠りの邪魔する奴ァ!!」
(?!)
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい?!?!」
怖すぎ?!?!
…いや2回目じゃね?
このやり取り…見覚え聞き覚えが。
「なんだ…お前さんか。協会には行ってみたか?」
協会か…確か身分の証明が出来なくて、パスポートを取るとこから始まったんだよね…。
「は、はい…一応行ってみたんですけど…パスポートとかが無くて…。」
「あーそういやお前さんは外国のもんだったか。にしてもお前さん、パスポートも何も持ってないのか?」
「そうなんです…何も持ってなくて。」
下校中だったもんね。さっきまでは。
「ほんと不思議なやつだな、お前さんは。それで、次は何の用だ?まあ、言わなくてもわかるがな。」
「そ、それでお金も何もなくてですね…あはは…。」
完全に察されている。僕が何を言いたいかを完全にわかっている様子だ。
「パスポートができるまでは生活が出来ないから、なんとか泊めてほしいってな感じだろ?」
「は、はい…お願いできませんかね…?」
心苦しい。さっき店に飛び込んできた、ほとんど見ず知らずの人間を泊めてほしいだなんて、断られて当然だ。
次にやってくる言葉はNOだろう。誰がどう見てもおかしい話だ。
そう覚悟したその時。
「おう、いいぞ。」
いいんだ?!
「あ、え、いいんですか…?」
予想外も予想外な反応が返ってきたので、思わず声が漏れてしまった。
こんなにあっさりOKしていいのかな。
傍から見た僕なんてただの怪しい人なのに。
「ほんとに困ってそうな奴を見捨てるほど薄情な人間じゃないさ。」
助かった...!!やっぱり人は見かけによらずだ...!!
でも、この人は見かけだけじゃなくて、接客の仕方がイメージを悪くしてるんじゃ...?
まあそれはそれとして、なんとか野宿せずに過ごせそうで安心だ。
だんだんと天使、いや神のように思えてきたかも...?
「夜に出歩くのは危ねえからよ、とりあえずはもうここに泊まっていきな。」
「ほ、ほんとにいいんですか...?み、見ず知らずの人間なのに...」
「見ず知らずでもなんでも、お前さんみたいな奴放っては置けないだろ?それに、お前さんを見れば悪い奴じゃないって事くらいすぐわかるさ。」
た、確かに僕って悪いやつには見えないよね!うんうん!
まあ...本当のことを言えば、ただパッとしないだけかもしれないけど。
何はともあれ、信用してもらえるなら願ったり叶ったりだ。
「そ、そうですか…?あ、ありがとうございます…」
「褒めてるわけじゃねえぜ?お前さんはパッとしないというか、なんというか......な?」
ですよね...。
かもしれない。が完璧に的中した。
ま、まあ自覚してるから傷つかないし?別になんとも思ってないし。
...分かってるし。
「ははっ!そんなに真に受けなくても大丈夫だ!お前さんはいい顔してるからな!」
「は、はあ...」
「とにかく、ちょっと間ここで暮らすことになるんだ。仲良くしてくれよな?」
「よ、よろしくお願いします...」
褒められたのか、バカにされたのかわからない気持ちになったがまあそれは置いといて。
なんとか一時的な住処を得られた。が、これからメンタルがどんどん削られていきそうな予感がする。
ま、まあ、宿を得ることに比べたらメンタルのちょっとやそっとはなんてことはないよね。あはは...。
「奥の階段を上がった右手に1つ空いてる部屋があるんだが、そこを使ったらいいぞ。」
「あ、ありがとうございます…!」
カウンターから奥を覗けば、少し薄暗いが階段が見える。
そういやここって結構奥行きがあるし、二階もあるからかなりの広さだ。
…どおりで物置になるわけだ。
「んじゃ、俺は店を閉める準備してくるから、お前さんは先に部屋に行ってきな。」
「わ、わかりました…。」
そう言った後、彼は店を閉める準備をしに店の外へ行った。
ま、とりあえず彼の言うとおり、自分の部屋に向かうとしようかな。
そうして僕は階段へと足を運んだ。
二階は想像通り広く、部屋の数だけでも五つある。
(僕の部屋は…ここかな。)
明らか一つ使われてなさそうな部屋がある。ていうか、扉も少し空いてるし。
「お邪魔します…」
誰もいない部屋にそう呟きながら入ると、そこは意外にも整理がされていて、綺麗な部屋だった。
ベッドに化粧台、そして本棚とクローゼットまである。
まるで誰かが住んでいたかのような、そんな部屋だ。
にしても、今日は本当に疲れた。足も痛いし、なにより考えすぎで頭が破裂しそうだ。
ベッドに寝転んだ途端、急激に睡魔が襲ってきた。
あぁ…目が閉じそう…。
………。
「おいおい、そのまま寝ちまったら汚ぇぜ?」
(?!)
突然目の前で声がしたと思ったら、そこにはさっきまで下にいたはずの店主さんがいた。
いつの間に入ってきたのだろう…?全然気づかなかった。気配すら感じなかった。
「あ、い、いつの間に…」
「ははっ!いつの間にってそんな怪しがらなくても今来たとこだから安心しな。にしてもお前さんなかなかにいい寝顔してたぜ?」
「そ、そうですか…」
「ああ、なかなかにな。ってそんなことはどうでもいい。お前さんのために食べ物を持ってきたぜ。」
どうでもいいって、自分から振ったくせに!!ひどくない?!
ま、まあちょうどお腹空いてたから食べ物で許すけどね?!?!
「あ、ありがとうございます…」
「おう。そこの化粧台のとこに置いとくから、好きな時に食べな。あと、風呂は一階の階段より奥へ進んだ所にあるから、いつでも入っていいぞ。」
「ほ、ほんとにいろいろとありがとうございます…」
ただでさえ急に来てしまって申し訳ないのに、さらにここまで気を使わせてしまうのは流石にちょっと気が引けるな。
「そんなに気を張らなくても大丈夫だぞ?俺が好きでやってるんだから、あんま気にすんじゃねぇよ。」
やっぱり見た目に反していい人なんだな。…って、この台詞何度言っただろうか?
「い、意外と優しいんですね…」
「意外はちょいと余計だぜ?まあ、とにかく肩の荷おろして楽にしな。」
「は、はい…!」
「いい返事だな。じゃ、俺は自分の部屋に行ってもう寝るから、あとはゆっくり過ごしてくれな。」
「お、おやすみなさい…」
そうして彼は自分の部屋へと戻って行った。
彼の言った通り、化粧台には缶詰めのような食べ物が入った袋が置いてある。
(今日はもう食べる元気がないな…。)
お腹は空いているのだが、なぜだか食べる元気が起きない。
とりあえず今日はもう休もう。体が悲鳴を上げている。
と、その前に。お風呂に入らなきゃね。
僕の自慢のひとつとして、風呂キャンセルをしたことが無い。というのがある。
結構清潔さには自信があるほうだ。
その自信を守るためにも風呂には入っておこう。
そう思った僕は、一階に降りて風呂場のある階段奥まで向かった。
風呂場には店主さんの分のバスタオルや歯ブラシなどのセットと、僕の分のセットの2つが置かれている。
本当に親切な方だと関心していたその時、ふとひとつの光景が目に留まる。
明らか放置されたようなバスタオルなどのセットが、三つも余分に置かれていたのだ。
ここには店主さんしか住んで居ないはずなのに。おかしい。
ゲスト用のセットとかなのだろうか?
まあ僕みたいな人が来るぐらいだから、ゲストの一人や二人ぐらいは来てもおかしくないか。
にしても、お風呂はどうやって沸かしているのだろう。ガスとかあるのかな?
街並みを考える限り、ガスが通っているとは到底思えない。
薪でも燃やしているのだろうか。でも、誰も燃やしている人が居ない。
魔獣とか訳の分からないものがあるくらいだから、よくある魔法?みたいなやつもあるのだろうか?
…今日は考えるのをやめよう。これ以上はほんとに死んじゃうかも。
いろいろと不思議だなぁ…と思いつつも僕は暖かいお風呂を満喫した。
入浴を終えた僕は、足早に部屋に戻ってきた。
もう眠い。本当に眠い。目が閉じそう。
すぐさまベッドにダァイブッ!した。眠い。てか半分寝てる。
明日からはまたどうしようか…?また明日考えるか…。
じゃあ、おやすみ…。
そういや店主さんの名前聞いてなかった…な…。
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