第3話 違和感と共通。



 生活から始める………という決心をしたものの…

正直、どこに何をしに行けばいいのか分からない…。


 とりあえず、ここら辺で仕事を探すしかないよな…。

と言っても、僕はこの街にやって来たばかりだから、まだ全然、どこに何があるかが分からない。


 とりあえず仕事を紹介してくれそうなところを教えてもらおう。

「僕、この街に来たばかりで、お金とかも全然持ってないんです。それで…仕事を案内してくれるところとかってないですかね…?」

「この街で仕事が欲しいなら、手っ取り早い方法は、冒険者になる事だな…」


 冒険者…?そんな職業は全く聞いたことがない。

 冒険ってことは、やっぱり各地を旅したりする職業なのかな…?


「その冒険者って職業は、具体的にどんなことをする職業なんですかね…?」

「そうだな…まあ、簡単に言えば"殺す"職業だな…」

「そんな物騒な職業なんですか?!?!」

「ははっ、冗談だからそんなに驚かなくていいさ!」

 冗談がきつすぎない?!?!

 ま、まあそこは置いといて…。


「えっと…じゃあやっぱり言葉通りって感じですかね…?」

「まあ、だいたいは言葉のまま捉えてもらっても構わないな。ちょいとお前さんの想像とは違うかもしれないが…」

 なるほど。言葉の通り冒険?をするお仕事なのか。

 結構面白そう。

 

「だいたいは依頼者の依頼をこなす仕事だな。これはあくまで噂だが、依頼の中には依頼もあるらしいな」

 少し変な依頼…か。変なってどんな感じなんだろ…

 まあ噂程度だったらそんなに気にする必要もないか。


「依頼をこなす仕事なんですね…。何か特別な資格とかはいらないんですか…?」

「そうだな。これといって必要なものはねえ。

 まあ強いて言うなら、『心』とかじゃねえか?」

『心』…?どういうことだろう…?

「依頼をこなすっつう仕事上、いろんなものが舞い込んでくるからな。ある程度の覚悟はしておいた方がいいと思うぞ。」

 なるほど。そういうことか。

 とりあえず今はなんとしてでもここで生活を立てなければならない。

 そしていずれは元いた世界に…って感じか。

 だけど…僕自身も正直話を飲み込めていない。

 本当に夢でも見ているのではないか。夢じゃないとありえない。だけど…。

 しっかり感触はある。ほっぺをつねったら痛いし、物音もしっかり聞こえる。

 夢にしては現実味がありすぎる。

 (…………………。)


 だめだ。考えるだけで頭が痛くなる。

 とりあえず覚めるまでこの世界を何とかするしかない。

 えーと…今はなんの話してたっけ…?

 確か、冒険者っていう職業の話をしてたような…

「お前さん、さっきからぼーっとしてどうした?

 なにか気にすることでもあるのか?」

 (?!)

「あ…あぁ…何も…大丈夫です!!あはは…」

 うん。もう怖ぇわ…。さっきからびっくりしかしてねぇわ…。

「そうか。ならいいけどよ、とりあえず職を探してるんなら冒険者の道も考えてもいいかもしれないな。どうだ?」

 とりあえずなってみるのもありだな。まあ、なれるならの話なんだけど…。

「とりあえず冒険者になるにはどうしたらいいんですかね…?」

「依頼とかを受けるんなら協会に行ってみるのが1番だな。そこで登録とかもしてくれるはずだ。」

 協会…か。とりあえずそこに行ってみるしかなさそう。

「ちなみにだが、協会に登録しないと依頼は受けられないぜ?申告なしに勝手に受けるのは罰則の対象になるぞ。」

 そんな規則があるのか。まあ登録したら済む話ではあるのだろうけど。

「そうなんですね。とりあえずその…協会?には行ってみようと思います…。その…協会の場所って…?」

「この店を出たとこにある道が大通りだ。その大通りを奥へ進んだ所にでかい看板が下げられてるはずだ。その看板を見たら分かるはずだ。」

「とても親切にありがとうございます…。」

 

 さて、さっそく行こうかな。その…協会?に。

 と、僕が店を出ようとした時。

「待ちな」

 (?!)

 この一言が僕の背筋を凍らせた。

「代金…まだだろ?」

 あ。

 忘れてた。

「あ…だ…ど、代金はどうしたら…。」

「しゃあねぇなぁ…代金は出世払いにしておいてやるよ。」

 神イベントだぁ…!!!

 この言葉が僕の凍りついた背筋を溶かした。

「だが一つだけ条件がある。」

 え?条件…?

 そして僕は再び氷柱となった。

「定期的にここに寄りな。来たばかりで困ってんなら助けてやらないこともないぜ。」

 ぁぁ…神が微笑んでいるようだ…。

「ありがとうございます…絶対に寄ります…!」

「おう。じゃあ、いっていいぞ。気をつけてな。」

「はい!」

 親切な人だなぁ…としみじみしつつ。

 僕は店を出たのであった…。



 ――やはり大勢の人で賑わっている大通り。

 周りが普段見た事ない人ばかりなので、少しそわそわしてしまう。

 「とりあえず協会に行かなくちゃな…」

 そう呟きつつとぼとぼ歩いていると、ふと違和感を感じた。

 何やらこちらをじっと見つめる少女がいる。

 建物の影からそっと、誰にも気づかれないようにこちらを見ている。

 最も気になったのはその髪色だ。

 髪の色はとても鮮やかな深紅色で、その鮮やかさには思わず見惚れてしまうほど。

 (綺麗だな…。)

 だけど問題はそこじゃない。一番の問題はなぜ彼女が僕をじっと見つめているかだ。

 あれ…僕なんかしたっけ…??

 店を出て歩いていただけのはず…。

 思わず逸らしていた目を、そっと彼女へ向ける。

 (?!)

 彼女はもうそこにいなかった。

 (なんだったんだ…今のは…?)

 確かに建物の影から僕を見ていたはず。

 しかも、周りは開けた大通りだ。隠れようとも隠れられないはずだ。

 (気のせいだった…?のか…)

 正直、困惑を隠しきれていないが、とりあえず協会の方へと進んで行くことにする。


 大通りを奥へ進んだところに看板が下げられている。とジーニウスさんは言っていたが…。

 (全然見当たらないんだけど…)

 周りを見渡しても屋台…というかなんというか。

 お祭りでよく見る感じのお店が立ち並んでいる。


 (もう少し奥まで歩いてみようかな…)

 そう思いながら歩いていると、大きな広場のような場所に出た。

 人の密度が高いので少し窮屈だけど、大通りよりかはかなり開けている。

 円形の広場に大通りが繋がっている形で、この辺の中でも中心的になっているであろう場所だ。


 大通りの圧倒的密度でとても息苦しかったので、少し開けた場所で休憩することにした。

 休息を与えられた脳に一つ疑問が浮かぶ。

 僕を見つめていた少女は?どこに?何をしにやってきた?数々の疑問が浮かぶ。

 もしかしたらここら辺にいるかもしれない。

 大通りよりかは開けた場所なので、視界も良好だろう。

 そうして僕は周りを見渡した。


 だが…全く見当たらない。


 見えるのは行き交う人々の姿だけで、先ほどの少女の姿はどこにもなかった。

 (何だったんだ…あの少女は…?)

 てゆーか…

 めちゃめちゃ気になる!!あんな綺麗な髪色は見たことないし!!

 (コ…コホン)

 ま、まあ、先ほどの少女も確かに気になるが、とりあえずは協会とやらを目指して歩くことにする。

 まずはそこに辿り着かないと仕方ないし。うんうん。

 と、心を切り替えて再び協会を目指して大通りの続きへと歩きはじめるのだった…。

 


ーー再び圧倒的密度の餌食になっていたその時。

 うっすらではあるが、と書かれた看板が見えてきた。

 まだ数十メートル離れているはずが、かなり大きくはっきりと文字が見える。

 よほど大きな看板なのだろうか。

 その看板を頼りに人ごみの中をかき分けて歩く。

 (暑苦しいな…)

 嫌な湿り気が漂っているし、いい天気なのも相まってかなりの炎天下だ。

 ほんの数十分いるだけでも熱中症確定だろう。

 こんなことを思いながら歩いているのは僕だけなのだろうか。

 すれ違う人々は何一つ苦しそうになく、平然と通り過ぎて行く。

 過ぎゆく人々を横目で見ながら歩いているうちに、建物の前までやってきた。

 建物を見て思ったことはただ一つで、それは…

 看板だけが大層だということだ。

 扉は黒塗りでいたって普通、というか何とも言えないというか。

 シンプルとも取れるし、何もないとも取れるような感じだ。

 だけど問題はそこではなく、その上にあるでかでかと掛けられた看板の方だ。

 扉や外壁はシンプルなもので抑えられているのに対して、看板は大きな木の一枚板にでかでかと冒険者協会と書かれており明らかに釣り合っておらず、バランスが非常に悪い。

「何だここ…ヘンテコすぎるでしょ…」

 思わず小声で本音を漏らしてしまった。

 と、とりあえず入ってみることにする。

 入る前から少し変だけども。

 扉に手をかけてみる。

 少し鈍く、低い金属音を響かせて扉が動いた。

 扉は金属製でかなり重く、両手じゃないと動かない。

 まあ、僕が非力すぎるのかもしれない可能性は置いといて。

 外から見ると全然気づかなかったのだが、中は結構広く大勢の人々で賑わっている。

 周りにはガラの悪そうなおぢさん(笑)から、気弱そうな女の子まで多種多様な人々がいて、本当に賑やかだと感じる。

 少し離れたところに受付と思しき場所を見つけたので移動しようと思ったが、人が多すぎるし何よりもみんな武器のようなものを持っているためすごく歩きづらい。

 窮屈な室内をかき分けながら歩く。

 (狭すぎる…)

 と、思いつつも何とか辿り着くと、そこにはいかにも生真面目そうな女性がいた。

 翡翠色の綺麗な髪色、穏やかそうな整った顔立ちを持った若い方だ。

 相手の見た目が良いとなんだか話しかけづらく感じる。

 今はそんなことを考えている暇は無いので、恐る恐る近寄っていき、話しかけてみる。

「あ、あの…」

「冒険者協会へようこそ!ご用件をお聞きいたします!」

 (結構明るめの人なんだな…)

 予想外の明るい返事が返ってきて少し驚いた。

 案外人は見かけによらずなんだな。

 それはさておき、ご用件を聞かれているのでご用件を答えるとしようか。

「そ、外から来たものなので、仕事を探しに来たんですけど…」

「新規の方でしたら登録が必要になりますが、いかがなさいますか?」

 そういや冒険者になるには登録が必要なんだっけか。

「登録って具体的に何かするんですかね…?」

「必要なものをご提示いただければ、こちらの方で登録させていただきますよ!」

 え?必要なもの?今は何も持っていないんだけど大丈夫なのかな…。

「必要なものってなんですかね…?」

「外部から来られた方でしたら、身分の証明できるようなパスポートなどがあればご登録いただけますよ!」

 やばい。持ってない。

 なんてったって学校の帰りだったし、わざわざパスポートなんて持ち歩かない。

 どうしようか。

「その…パスポートなどを持っていないんですけど、どうすればいいんですかね…?」

「パスポートなどをお持ちでない場合は新規発行が必要となりますが、あなた様のご年齢と種族をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 種族…??

 確かにこの世界は見るからに人では無いものが存在している。

 まるでファンタジーのような長耳の方もいるし、まるで天使のような羽が生えた方もいる。

 いやもうなんでもありだな…これ。ってほどにはたくさんいる。

 だけどあまり聞き馴染みのない質問だったので、思わず混乱してしまった。

 気を取り直してっと。

「え、えと…人間の16歳です。」

「人間の16歳の方…となりますと、パスポートの新規発行は少しお時間がかかりますが、いかがなさいますか?」

 時間がかかるのか…。

 けど今すぐにでも仕事を探さないと、こっちで何も生活ができないな。

 どうしようか…。

「あ、全然大丈夫です…」

 「でしたら、この用紙にお名前と生年月日、種族、性別などの必要事項をご記入頂けますか?」

「は、はい、わかりました…」

 とりあえず早く発行してもらいたいので、必要なことは何でもやろう。

 名前は、夢咲勇人…だけど、この世界でも名前の形は一緒なのだろうか…?

 特に指定されている訳では無いので、まあいいか。

 あ、そういや、生年月日はどうしたらいいのだろう?

 この世界も西暦…なわけないか。

 とりあえずさっきの受付の人に聞いてみよう。

「あの…すいません、今って何年の何月何日ですかね…?」

「2020年4月20日ですよ!」

「あ、ありがとうございます…」

 西暦だ。しっかり西暦だ。

 やっぱりおかしい。至る所が元の世界と似通っている。

 まず、言語が同じの時点でいろいろとおかしいとは思っていたのだが、ここまで同じとは…。

 名前、生年月日、種族、性別、適性っとね。うん。

 

 …ん?種族?適性?項目がなんかおかしい。

 まず種族ってなんだ…?

 人間…としか言いようがないが…。

 人間以外にもなんかあるっけ…?

 それに適性ってなんの適性だ…?

 うーん…。自動車とか?なわけないか。

 とりあえず空欄にしておこう。だってわからんし。

 とりあえずそれ以外の項目も一通り書いておこう。わからないとこは…まあなんとかなるとして。

「あの…書いたんですけど…これで良いんですかね?」

「確認いたしますね!」

 多分大丈夫だ。多分。

 (…)

「一通り確認しましたが…これは…」

 いやだめか…。どこがだめだったのだろうか。

 適性のところが空白だからとかかな。

 とりあえずもう一度書き直s…

「特に問題ありません!こちらの方で届け出をさせていただきますね!」



 …いやフェイントかよ!!!



 い、意外とお茶目なんだな…。

「そ、そうですか…じゃ、じゃあお願いします…」

「では、三週間後にまたこちらの方にいらしてくださいね!」

「わ、わかりました…ありがとうございました…」

 三週間ぐらいかかるのか…。まあ仕方ない。

 …にしても綺麗だったな。あの受付の人。

 ま、まあそれは置いといて、とりあえずここを出よう。暑苦しいし。




 名前だけでも聞いておけばよかったなぁ…。

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僕はこの世界で死について考える。 みかみ @mikami_novel

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