第66話

「んで、さっきの話だけど。———本気で言ってる?」


「…冗談だと思う?」


「うん。そんな度胸ないでしょ?」


「あるもん」



ついに薄い雲がきれて、月明かりが冴島を鮮明に照らしていく。



青白く光る月明かりに照らされた顔は造形美のように美しかった。


ドキドキなんてしない。


ただその美しいものに触れたいと思う欲求に何もかもが支配される。


モラルや思考を無視して勝手に動いていく私のからだ。



その大好きで綺麗な顔に吸い寄せられるように顔を近づけ、薄い唇に触れるだけのキスをした。




「え?———マジで・・・」




その呟きと人肌の温もりを感じて、そこで目が覚めたように自分が大それたことをしたと羞恥心に駆られる。



「あ・・・ごめん。——………間違った」



わたしの一連の動作を放心したように目で追っていた冴島が、私の謝罪に疑問を抱くように顔を歪めた。



「間違えた?————なにを、どうやって?」


「や、だから、ごめん。酔ってて悪ノリした」


「悪ノリって・・・」


「そっちが煽るから」


「煽るからって…。だからキスしたの?酔った勢いで?」



やっぱり凄く責められてる気がして悲しくなってきた。



「———ごめん」


「ごめん――――って……、どういうごめん?」


「だから、もうごめんって」


「だから何に対してのごめんなの?それ」



月光は直ぐに雲に覆われて見えなくなり、少し薄暗くなったころ、下を向いたままの私。


冴島がスイッチを押すと、明かりが消えて私の手に持ったモノだけが光っていた。

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